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『…ｯごほ、けほ、ん゛ん…』
吐き出された紅色を拭くのにも慣れてしまった。
——その終わりが近いことも、わかっていた。
そう思う度、ロボロはやりきれない悔しさと喪失感に襲われるのだ。
『ねェ先生？あたしの事は…もう、考えなくていいのよ。』
rb「そんなの、」
『無責任だ、とか思うのかしら？』
医者は静かに頷く。
見透かすような彼女の瞳に、どこまでバレているのか怖くなった。
何も、言えなくなってしまった。
『普段通りが1番なの。先生と患者、ね。』
rb「…」
伏せられた睫毛が陽の光で霧散する。
Aの瞳は、どこか寂しそうだった。
ロボロは唇を噛む。
一度は、駆け落ちを考えた。
しかしここを離れるというのは、彼女の身体を蝕む病を治すことを諦めるのも同義だった。
『先生には将来を誓った人がいるでしょう？
こんな、死にかけの女に構ってないで、その方の隣にいるべきよ。』
rb「…ｯいやや、あんさんが傍におって。」
『あたしの一生は捧げられるけれど、先生の一生は受け取れないわ。』
咳き込むAの手をロボロの両手が包んだ。
口元から零れる血液を拭いてやる余裕もない。
確かにロボロには婚約者がいる。所謂、許嫁。
rb「家同士の結婚なんて興味無い…！」
『あら、傷ついちゃう。』
おどけて言うAからは喘鳴が聞こえていて、下顎を動かして呼吸している。
それが、死戦期呼吸と言うのを、医者であるロボロは知っている。
rb「待ってや、いかんといて、」
『最期にいてくれるのが先生で良かった。』
rb「最期なんて言わんで、寝ちゃだめやでまだ夜やないやろ、」
rb「戻ってきてや…」
掠れた声に、懇願する。
ロボロの知る範囲で、止まった心臓がもう一度動くことは無い。
現代の医療、独逸式の医療の限界であった。
涙が布団にしみを作った。
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作者名：etra | 作成日時：2024年3月16日 13時
