第4話 一夜の変貌 ページ5
「お前のような女は嫌いではない。どれ、すこし実験してやろう」
そう言って男はわたしの目の前にしゃがみ込むと、もう片方の手でわたしの顎をつかむ。
グイッと上を向かされ、数センチもない距離で目が合った。
ニヤリと笑った口元。そこから覗く牙。
わたしは目を見開いた。
その時、
「んッ!?」
口の中にドロっとした鉄臭い液体が流れ込んでくる。
それがなんなのか、一瞬でわかった。
血だ。この男の血だ。
先ほど切った右手から滴り落ちる血が、わたしの体内に流れ込んできている。
背筋が凍った。
「んッ…ん゙んー!! や、やめッ ! ん゙ッ」
顎をつかむ男の手を握りしめる。
次々と流れてくる血は、わたしに息継ぎの暇さえ与えてくれない。
むせ返る。
苦しいッ…息が出来ない!!
何がしたいの、この男は!!
「そろそろいいか…」
男は手を離した。
あれから約10分ほど、わたしは血を飲まされ続けた。
息が吸える。だけど気分が悪い。ひどく鉄臭い。
「ゴホッゴホッ…ゴホッ」
地面に倒れ込むわたしを、男はうっすら笑みを浮かべながら見下ろしていた。
なんて男なの…! 結局、この男は何者で……ッ!!
ドクンッ、ドクンッ
「な、何…体が変……」
ドクンドクンと、体内で響く音。熱くなる体。吐き気がする喉元。
「……ッ、ぁ、頭が痛い…ッ」
頭蓋骨を直接握りしめられているような、今まで体験したことのない鋭い痛み。
頭だけじゃないッ。体中のあちこちが、ひどい痛みでッ……!
「あ゙、あ゙あぁぁッ!! 痛いッ痛いッ!!」
わたしは激しくのたうち回った。
痛い痛いと泣き叫びながら、虫のように足をばたつかせる。
羞恥心なんてどこかへ行ってしまった。
「あ゙あぁ…あんた、わたしに何を、ッしたの…ッ」
「ちょっとした実験だよ。お前はどこまで耐えられるか、鬼としての資質があるか」
「……鬼ッ……?」
鬼って、こいつの正体が鬼ってこと? だとしたら、その鬼の血を飲んでしまったわたしは、どうなるの…?
「見たところ、多少の細胞破壊はあるようだが、肉体が崩れることは無いようだな」
「わたしの血をあれだけ取り込んでも生きていたのは、彼奴ら以外初めてだ」
「お前には、鬼になる資質があるようだ。それも、他の奴らとは違う…」
意識が朦朧として、何を言っているのか聞き取れなくなってきた。
痛みも激しくなる一方だ。
6人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:夕霧 | 作成日時:2019年8月23日 14時