独立独歩を貫く ページ29
ジリーロジャー寮の待機室に、消えた船長がずぶ濡れになって戻ってきたが、それはコロシアムを覆っていた霧に関係するのだろうか？
最も、それを説明できる人間は黙示を続けており、スミスから乾いた白いタオルで濡れた髪を優しく拭かれている。
船長の命によって寮生全員が甲板に並び、舵の目の前で座り込む船長を、なにがあったのかと心配そうに話す。
｢すまない……。
今回のパフォーマンスの件だが、先刻魔法を使用したことによって、最大の魅せ場が台無しになってしまった。｣
船員たちは困惑する。
今日まで緊張しながら本気で向き合い、努力を弛まず続けたのは他の誰でもない我らが船長であるのに、自ら勝利を諦めてしまう宣告をするなんて信じられない。
困惑と疑念が飛び交う中、スミスは船長の目がほんの少し涙ぐんでいたことと、目元がほんのり赤くなっていることに気がついた。
スミスでしか見つけられないような些細な違いである。
いままで船長が一人行動して何も話してこなかったことに疑惑を抱いていた寮生が、やっと一致団結して進み出したというのに、振り出しに戻ってしまった。
1人の寮生が何かあったのかと聞くと、毒林檎を浄化したと遠回りな表現をする。
スミスは何となくわかっている。
良くも悪くも自己犠牲精神の寮において、寮生を危険なことに関わらせてしまえば自分の命を捨て出して、大多数の犠牲を防ぐ結果を選ぶ。
船長は誰一人として失いたくないのだろう。
最大多数の最大幸福なんて、誰が考えた言葉だろうか。
それが最上級の悪気がない残酷な結果だというのに。
船長が詳しく話さない理由は、なにか危ないことがあったからであり、寮生に隠すような言い方でそれ以上の線を踏まないようにしているのだ。
S極とS極のように反発し合い、くっつくことがないため、すれ違いがどんどん加速していってしまうのだ。
ｽﾐｽ｢私に案があります。｣
だからこそ、船長一人に全てを背負わせる訳にはいかない。
何も言ってくれないが、いつか話して背中の重みを共に持つ事が出来る日を待つしかない。
それまで、船長に頼ってくださいと何度も語り掛け、自分から肩の荷を持ちに行き、少しでも楽にさせてあげよう。
スミスが捻り出した案は、寮生の不満への解決策をまとめたような案であり、今のAでは考えついても実行できない作戦であった。
了承されるか不安だったが、今回の優先順位を考えればそれを実行するしかない。
｢……出港するぞ！！｣
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作者名：あかまる | 作成日時：2022年11月6日 14時
