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「へ、へえ…傑が……」
その名前を聞いた途端、心が掻きむしられるような焦燥感に襲われた。私は彼に“わかれたい”と送ったことを昨日の事のように覚えていたからだ。
私はその焦りを隠すように硝子から受けとったペットボトルに口をつける。随分水を口をしていなかったため、喉が乾ききっている。
「夏油、毎日ここ来てたよ。あいつも忙しいってのにね」
「…冗談?」
「マジ。あんたら上手くいってなかったみたいだけど。」
「あれ〜…気付いてたの?」
「気付かない方がおかしいでしょ。…まあ五条の野郎は気付いてなかったけど。」
私が傑を避けていたこと、硝子にはバレていたか。まあ、声を出さずに生活していたこともあって、少しあからさまだったのかも。…五条は置いといて。
特に声は傑に聞かれたくなかったし、自分でも聞きたくなかった。今だって正直複雑な気分。でも傑はここに居ないし良いや。息抜きだって必要だ。
しかし、毎日この部屋に傑が来ていたというのはにわかにも信じがたい。硝子が気を使ってくれているのだろうか、否硝子はそんな嘘をつくはずがない。
喜べばいいのか、そのまま疑えばいいのか、頭の中の天秤が揺れる。
「まあ、夏油はお前のことすごく心配してたよって話。勿論私も五条も心配したよ。そこの花だって五条が持ってきたやつ。珍しく洒落てるだろう?
…で、目覚めたばかりってことに免じてこれくらいにしておくけど、色々話したいことがあるんだ」
家の事とか。と付け加えられ、私は思わず苦い笑みを微かに浮かべてしまう。
家の事も、バレてしまっていた。当然だろうな、金を払ってまで手に入れた強化アイテムを失くしたのだ。あの人は黙っていない。
家のことを思い出すと急に心が病んでしまう。まだ私はあの家からの呪縛は解かれていないのか。起きなきゃ良かったな。
「…んで、夏油なんだけど、もう夜遅いから明日の朝に来いって言っておいたから…」
硝子の声が、唐突な部屋の扉を開ける音でかき消される。肩が上がるようなとても大きな音だった。
私が音のする其方を見る隙もなく、飛びつくような体重が私へ掛かる。そしてそれは、私の体をぎゅうぎゅうと抱きしめるのだ。
私の好きな香りが鼻腔に広がる。以前までその香りが好きだった。否、今も好き。目が熱くなるほど、大好き。
「本当に、良かった」
それなのに、私の本能は拒絶したがっている。
軋む、軋む、私の何か。
とても、苦しい。
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rix(プロフ) - 尊さん» お待たせ致しました!只今公開致しました〜!!犬小屋から出てきてくださ〜〜い!!!!お家に帰りますよー!! (2021年3月27日 9時) (レス) id: c4228ae6c4 (このIDを非表示/違反報告)
尊 - rixさん» なぬ、神様の作品なら絶対読みます!犬小屋で地団駄踏んで待ってます! (2021年3月24日 17時) (レス) id: b48a344f5f (このIDを非表示/違反報告)
rix(プロフ) - 尊さん» コメントありがとうございます!わー!そう言っていただけると嬉しいです(;;)休日に新作出すと思うので是非そちらもお読みいただけると嬉しいです笑 (2021年3月24日 17時) (レス) id: c4228ae6c4 (このIDを非表示/違反報告)
尊 - めちゃくちゃ感動しました!あなたは神作の神様だったですね、一生崇拝します (2021年3月24日 14時) (レス) id: b48a344f5f (このIDを非表示/違反報告)
rix(プロフ) - ひなたさん» コメントありがとうございます!よかったです!!笑自信結構なかったのでそう言っていただけると嬉しいです!! (2021年3月22日 13時) (レス) id: c4228ae6c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:rix @元荼毘 | 作成日時:2021年2月28日 14時