私を忘れた先生へ【鬼滅の刃】 (ページ5)

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｢今日は授業があったのか？

宇髄」

私は目を見開いた。

｢おー、煉獄

新学期早々普通教科の担当は大変そうだな。｣

心が一気に暖色で覆われる気がする。

｢ああ、久々の授業だった

有給休暇消費した連休は楽しかったぜ？｣

｢それは良かったな｣

白く輝く美しい髪、私よりもずっと高い身長、私を包み込んでくれた広い肩幅。

その声

その口調

全てが変わらない。

天元様だ。

長いこと諦めずに探し続けた私が初めて報われた時だった。

｢ん？

後ろにいるやつは…｣

心臓が高鳴り、胸が熱くなった。

嬉しくて涙が出るというのはこういうことだろうか。

｢ああ、俺が担任してる生徒の叶瀬だ！｣

思わず涙が出そうだったが、ここでは泣けないと堪える。

お久しぶりです。

そう口の先まで出かかった。

｢新一年か｣

だが天元様が私に浴びせた言葉は、

｢俺は宇髄天元だ

一年は美術ねえから二年からよろしくな

それと煉獄に目付けられたら大変だから気をつけろよ｣

まるで初対面に対する言葉であった。

｢それは心外だな！｣

｢事実だろうが｣

心に穴が空いたようだった。

｢叶瀬、

叶瀬Aです｣

先程の高揚感と今の虚無感で頭がおかしくなりそうだ。

そうか、前世の記憶があるのは稀な事だった。

改めて私の異質を思い出した。

｢宇髄先生、すごく派手な方ですね｣

｢おっ、わかる奴だなお前！｣

私は生徒、天元様は教師。

そして天元様は前世の記憶がない。

結ばれない、もう二度と前の関係に戻れない。

それは確実であった。

｢煉獄先生、このワークは2年1組のですよね？

先に置いてきます。｣

｢いや俺も行こう！

じゃあ、また後でな！｣

｢お前、他学年の分も女子生徒に持たせてるのかよ…

ああ、また後で。｣

今の天元様にとって私はただの“女子生徒”である。

私は天元様の幸せを見守ろう。

そう決めた。

｢これで最後だな。

今日はありがとう、助かった！｣

そう決めたはずなのに。

｢じゃ、私帰りますね｣

上手く笑えているだろうか。

｢さよなら、先生｣

｢ああ、気をつけ……」

止まってくれ。

止まれ。

目元が熱くなる。

私は教室を飛び出した。

｢叶瀬…？｣

家に帰る間際、すれ違う人に必ずと言ってもいい程顔を見られた。

欲張りはいけない。

天元様に会えただけ幸福よ。

そう私に無理にでも言いつける。

この世界でも

私の隣に彼がいることはなかった。