Ep.29 ページ30
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「───茅野、ノートパソコン持ってこい。
あと緒方も、ちょっと来い」
先生に呼ばれて、我に返る。
目の前の涼音を雑にあしらい、中尾くんの両足を掴んで引き摺っていく先生。
さくらが先生のパソコンを持って教室を飛び出して行くのを見て、私もそのあとを追いかけた。
美術室に入ると、先生が中尾くんを美術準備室の方へ引き摺りこんでいくのが見えて。
パソコンを机に置いたさくらが何かを見つけ、ふらふらと駆け寄った。
『・・・澪奈、』
少し前から先生が描いていたのは知ってた。
笑っていない、澪奈の絵。
ビリビリに引き裂かれたそれに、さくらが触れる。
寒色で描かれたその絵の下に、またもう1枚。
「・・・これ、」
暖色で描かれた、澪奈の笑顔だった。
「───もういいよ」
ビクリと肩を跳ねさせたさくらはゆっくりふりかえり、先生を見上げた。
「・・・戻っていい」
パタパタと出ていったさくらのあとを追おうとすれば、左腕を掴まれて。
「・・・お前は、まだ」
怪我をした箇所に、ぎゅっと力を込められた。
痛みに思わず顔を歪める。
「・・・傷と顔、洗え」
私の頬を拭った先生の指には、真っ赤な血。
中尾くんの血が、私の顔に飛んでいた。
美術室の中にある水道で、傷口と顔を洗う。
タオルなんてないから袖で拭って。
血塗れのネクタイはもう捨てる。
顔をあげた私の目の前に、先生がいた。
『・・・私を、殺して欲しかった』
どれだけ憎んでいてもクラスメイト。
涼音の泣き叫ぶ声が、ここまで響いてくる。
先生は何も言わずに私の顔をじっと見つめる。
『ねぇ、もうわかんない・・・!
先生の考えてることも、皆の気持ちも・・・ッ』
あんなに簡単に他人を見捨てることができた皆が、
あんなに簡単に人を殺した先生が。
怖くて怖くて、たまらない。
あんなに大好きだった先生のはずなのに。
「・・・・・・緒方、」
『・・・やだ、』
「落ち着け」
『来ないで・・・ッ!
来んな、来んな!!』
1歩ずつ後退れば、先生も1歩ずつ近付いてくる。
尋常じゃないくらいに震えているのが、自分でもわかる。
『せんせ・・・ッ、』
崩れ落ちそうになった私を受け止め、先生はそのままぎゅうっと苦しいくらいに抱きしめた。
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寿司 - 何度も見返しております。 そのくらい大好きです! (2019年1月19日 17時) (レス) id: 1641cbc119 (このIDを非表示/違反報告)
のに - 最高です。ストーリーめっちゃ好きです。 (2019年1月15日 19時) (レス) id: 7e4ee45a06 (このIDを非表示/違反報告)
オレンジ☆(プロフ) - ↓誤字がありました、すみません!これからも、楽しみにしています!です! (2019年1月15日 10時) (レス) id: ea2cee480d (このIDを非表示/違反報告)
オレンジ☆(プロフ) - はじめましてオレンジです!あなた様の作品を楽しく見ています!!頻繁に更新をしてくださりありがとうございます!これからも、楽しみにしていましています! (2019年1月15日 10時) (レス) id: ea2cee480d (このIDを非表示/違反報告)
地咲 - 好きです(真顔) (2019年1月15日 2時) (レス) id: f98b79cb93 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しぃも | 作成日時:2019年1月7日 21時