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｢ねぇー、まだ警戒してんの？｣
……当たり前だ。
グルグルと思考を巡らせながら未だ玄関に突っ立っている私を余所に
｢てかなんか飲み物ない？俺喉乾いたー｣
なんて能天気に言う男の姿を見て不信感は薄れてきたものの、状況が飲み込めなさすぎる。
この男が強盗犯でもなく殺人犯でもなかったとしてなぜ私の家に当たり前のように存在しているのか。
見兼ねた男がはぁ、と大きな溜め息を一つ吐いて再び私を覗き込んでくる。
さっきも思ったけど、この男足音がひとつもしない。
気付いたら目の前にいるから少し怖い。
なんとなく今まで会ったことのない不思議な雰囲気を感じる。
逃げようと思えばこの時点で家を飛び出すこともできた。
でもなぜだか目が逸らせなくて囚われてしまったかのように彼の瞳に見惚れてしまった。
｢…どうしたら信じてくれんの？｣
｢へ？｣
｢俺に殺意がないってこと｣
いや、そんなこと言われましても。
そもそもあなた誰なのよ。
｢あ、てかお前誰だよって思ってる？なんでここにいるんだよって思ってる？｣
またもや心中を読み取られて素直に頷いてみせれば
急に真剣な顔になった男が私を真っ直ぐに見据えた。
(しかもよく見たらすごく美少年。いや、美青年？)
｢俺はね、A｣
そう言って一歩近付いてきた男は私から視線を逸らさずに距離を縮めてくる。
訪れた沈黙に妙な緊張感が走る。
ゴクッと自分の唾を飲み込む音だけが耳の奥に響いた。
｢実は俺、恋の妖精なんだよね｣
｢………はい？｣
彼の言葉に動きかけていた思考回路が再び停止した。
え、もしかして笑うとこ？
想像以上にやばい奴すぎて絶句するしかない。
そんな真面目な顔でよくそんなこと言えるな。
殺人犯もしくは強盗犯がつく冗談にしてはメルヘンすぎないか。
え、だとしたら私って妖精見えるの？しかも恋？
いやありえないけど。怖い。怖すぎるこの人。
頭混乱しすぎてなんて言ったらいいか分からない。
どう受け答えするのが正解？
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作者名：ぽむ | 作成日時：2021年7月25日 12時
