この声が貴方に届いたその時は (ページ20)

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大我は私の手を握ったまま何も聞いてこない。

ショーケースに並ぶ見た目の美しい色とりどりのケーキを眺めながら｢どれがいっかな〜｣なんて食い入るように見つめている。

｢やっぱここは王道のショートケーキだな！｣

そう言って嬉しそうな顔を向けてきた。

｢Aは？チーズ？｣

無言で頷くしかできない私。

｢うわ、やっぱマンゴータルトも買っていい？｣

再び頷いて見せると
｢Aももう一個買いなよ｣
なんて満面の笑みを浮かべる。

えーいらないよ、って内心思ったけど

｢こういうときは甘いもの食って幸せ気分で気持ちリセットでしょ｣

そう言って無邪気に笑う大我に自然と頷いてしまった。

二人で並んで歩く帰り道。

あまりおしゃべりな印象はなかった大我が気を遣ってるのか
やたらとどうでもいい話をするから少しだけ申し訳ない気持ちになった。

正直、彼のことはもう過去になったと思ってたのに。
でも顔を見てしまったら全然大丈夫なんかじゃなくて
平気なフリなんてできなくて
ただただ苦しくなる胸をグッと押さえつけるしかなかった。

家に帰ってきてからも大我は彼のことに触れることなく
いつも通り一緒に夕飯を食べて食後のケーキを食べた。

当然私の気分は上がることなく。
大我の言う甘いケーキを食べて気持ちリセットができなかったのは最後に食べたティラミスがほろ苦かったからかもしれない。

｢おやすみ｣

そう言ってベッドに潜り込んだ私を見て
ゴロゴロしながら漫画を読んでいた大我が｢え、もう寝るの？｣と目を丸くした。

｢うん｣
あからさまに元気のない私の返事にふーんと呟いた大我は
おやすみ、と再び漫画に視線を戻した。

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