「我爱你」って言わせてよ

二. 既婚者 ページ15

故郷を離れ、異国の地で奮闘するミンハオを教育係として、先輩として、同じ中国人として励ましてあげたかった。

入社してから日に日に痩せて、目の光が失いかかっていたミンハオを見捨てることは出来なかった。

どうしたらミンハオに元気を与えられるのか。悩みに悩んだ僕の頭の中で、ふとAヌナの笑顔が浮かんできた。

そうして行きつけである中華料理店に連れてから、徐々に笑顔を取り戻すミンハオに僕は心の底から安堵した。

韓国語も以前より上達し、仕事も順調のようだ。ミンハオと一緒にお店に通う回数も増え、今では彼も立派な常連客の仲間入りを果たした。

そんなミンハオの視線はもっぱらAヌナに注がれていた。きっと無意識だと思う。

「もしかしてAヌナのこと気になってる？」
「！、ゴホゴホッ。ちょ、ジュニヒョン！急に変なこと言わないで！」

青椒肉絲を食べていたミンハオが急に噎(む)せたかと思えば全く怖くない眼光で睨まれる。

「違うの？」
「…そもそも、Aヌナは既婚者ですから」

視線を下に逸らし、箸を止めたミンハオの表情はどこか寂しそうで、力なく笑った。

Aヌナはこのお店の謂わば看板娘だ。美人で、性格も明るく、笑顔を絶やさない素敵な人だ。ここに足を運ぶ人々はヌナ目当てが大半だと思う。

だけどその一方でヌナが既婚者だと知ればみんな決まって落ち込み、ヌナ目当ての客足が遠のく。きっとヌナはそのことを知らない。

「最近のヌナは元気ないですね…」
「そうだね、なにかあったのかな」

ミンハオはホールを駆け回るAヌナを見ながらぽつりと呟く。

最近のAヌナは以前の活気がなくなり、心ここに在らずだ。何度か溜め息をついている姿も目にする。少しやつれたようにも見えた。

結局その日はヌナに何も聞けぬまま、僕たちは繁忙期を迎えた。しばらくお店に顔が出せない日々が続き、あれから三ヶ月後。ようやく仕事が落ち着き、久しぶりにミンハオとお店に足を運んだ。

「いらっしゃいませ」

そんな僕たちを迎えてくれたのはAヌナではなく、顔見知りな女性店員だった。

「あら、ジュンくんとミョンホくん。久しぶりねえ。そうだ、Aちゃんの話まだ聞いてないわよね？」

そこで僕たちが聞かされた内容は予想していないものだった。

「Aちゃんね、離婚しちゃったのよ」

ふと無理して笑うAヌナを思い出した。

僕は非力だ。彼女が辛いときに何も出来ないただの客に過ぎないのだから。

三. 傷心中→←一. 中華店

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