今日も私はヒョンを演じる

〈 マンネは甘えたい 〉 ページ33

Aヒョンはメンバー以外にも交流関係が広い方だ。先輩や後輩、現場のスタッフからも好かれている。それはアイドルとして天性の才能だと思う。

それでもやっぱり寂しいと感じてしまうのは俺のワガママなのだろうか。

「…Aヒョン」

Aヒョンの部屋をノックすると中から「はぁい、どうぞ」と優しい声が転がってきた。遠慮がちに扉を開けば、部屋着でリラックスしていたヒョンが笑顔で迎えてくれた。

「僕の部屋に来るなんて珍しいね。どうしたの？」
「あのさ………一緒に寝てもいい？」

こんなお願い、他のヒョンには絶対に言わない。Aヒョンだから言えるのだ。…あとはほんの少しの下心もあったりする。

俺が恥ずかしそうに呟けば、くすくすとヒョンは笑う。それは揶揄うような笑い方ではない。

「実はさっきホラー映画観ちゃってさ。ちょうど一人で寝るのは怖いなって思ってたところなんだ」

だから一緒に寝てくれる？と首を傾げるヒョンのこういう所がずるい。

セミダブルベッドの上にはヒョン達が贈ったぬいぐるみ達で占領されていた。その中には俺がAヒョンにあげたカワウソのぬいぐるみも置かれていた。

「今日はみんなあっちで寝てね〜。あ、ディノチャン(・・・・・・)はこっち」
「ディノチャン？」

ベッドの上から机の上へとぬいぐるみを移動させていたヒョンがカワウソのぬいぐるみをそう呼んでいた。

「この子の名前だよ。日本語の"ちゃん"とチャニの名前をかけているんだ」

そう言って嬉しそうにカワウソのぬいぐるみを抱き締めるAヒョンに頭を抱えそうになった。なんだよそれ、可愛すぎるだろ。

大人二人で使用するには少し狭く感じるベッドだけどAヒョンと密着するには十分すぎる距離だった。

真っ暗になった部屋にはカーテンの隙間から月の光がこぼれていた。隣を見ればうっすらとヒョンの顔が見えた。

「僕はどこにも行かないから安心してね」

ぽつりとAヒョンが呟く。きっと俺のちっぽけな悩みなんてお見通しなんだろう。

「こんなに可愛いウリマンネを置いて他の所になんて行けないよ」

隣でくすくすと笑うヒョンの顔は暗くてよく見えない。だけどいつもの優しい表情だと声色で分かった。

心地良い空間に睡魔が忍び寄る。微睡みの中でおやすみチャニ、と優しい声が聞こえたような気がした。

翌日、Aヒョンと一緒に寝ていたことがバレてみんな(特にジョンハニヒョン)から揉みくちゃにされた話は、また今度。

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