「すれ違う僕たちの終着点」 ページ9
まるでふたりきりの世界に迷い込んだみたいだ。
喧騒とした東京の街中から抜け出せば、人の気配がない公園に導かれたかのようにたどり着く。
掴んだ腕を名残惜しく離せばAの口がゆっくりと動き出す。
「…チャニ、どうして日本にいるの？」
まさか本当にAに会えるなんて思ってもみなかった。これは賭けでもあった。
もしAに会えなかったらこの想いは思い出の中に仕舞っておこう、そう心に決めていた。
虚しく耳元で鳴り続ける呼び出し音に僕の心は少しずつすり減っていた。連絡先を知っていても反応が無ければ羅列された番号など意味のないものだ。
「Aに伝えたいことがあってここまで来たんだ」
肩で息を整えている彼女は潤んだ瞳で僕を見上げる。ねえ、A。そんな顔で見つめられたら期待しちゃうよ。
「…知っているかどうかは分からないけど僕のスキャンダルはデマなんだ。もしAが勘違いをしていたら嫌だからそれだけは弁明させてほしい」
彼女からの返答はない。だけど先程まで険しかった表情が少しだけ緩んだような気がした。
「ハハ、僕は君が思っている以上に焦っているんだ」
独り言のように弱音を吐き出す。練習生時代からの癖で彼女には弱い部分を見せてしまう。
そうすると彼女は弱い僕ごと全てを包み込んでしまうんだ。それが居心地良くて、彼女の優しさや温かさに甘えてきた。
「A、どうか逃げないで聞いてほしいんだ」
公園の頼りない街頭が僕たちを照らす。指先が小さく震え出す。僕は今、とてつもなく緊張しているようだ。
舞台に上がるときとはまるで違う。期待、不安、恐怖。真っ暗な波にのまれるような底知れぬ感情に支配されそうだ。
「チャニならみんなから愛されるアイドルになれるよ」
………違う、僕はあの日誓ったんだ。
今にも泣き出しそうな顔で無理して笑う君の手を掴めなかったあの日を今でも後悔しているんだ。
あの頃の僕は幼くて、無知で、未熟で、君を受け止める器もなかった。
事務所から立ち去る君の背中をただ見つめることしか出来なかった。
だけど今は違う。手の届く範囲に君がいて、今度はしっかり君の手を掴める。君の全てを受け止められる。その覚悟が、出来ている。
ねえ、A。
「好きだ、出会った日からずっと君しか見えなかった。君の一生を、僕にください」
僕の全てを賭けて、君を愛したい。
静寂に包まれた公園に彼女の息を呑む音がはっきりと聞こえた。
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矢崎(プロフ) - さくさくさん» さくさく様、最後まで読んでいただきありがとうございます ❤︎ 題名の仕掛けにも気付いてくださり流石です〜！！完結作品が一つ出来てホッとしています（笑）今後の作品も是非見守っていて下さると幸いです😌🩶 (1月26日 15時) (
レス) id: 28d438705b (このIDを非表示/違反報告)
さくさく - 完結おめでとうございます！！題名に仕掛けがあること あれ？もしかして？ と気になってうずうずしていたので やっぱり〜！！ なんて1人で盛り上がっていました笑 毎話毎話楽しみにしていたので完結してとっても嬉しいです😊本当におめでとうございます🤗 (1月26日 0時) (レス) @page11 id: 8125d01b3c (このIDを非表示/違反報告)
矢崎(プロフ) - アイさん» アイ様の記憶に私の書いた🐺が少しでも残ってくだされば嬉しい限りです。本当に最後までお付き合いいただきありがとうございました！！！今後も惹かれる作品を書いていけるよう精進します😌🩶 (1月21日 21時) (レス) id: 28d438705b (このIDを非表示/違反報告)
矢崎(プロフ) - アイさん» アイ様、ご愛読・コメントありがとうございます！！！タイトル名をつけるセンスが私には皆無だと思っていましたので、アイ様が読むきっかけになってもらえて光栄です ❤︎ （続きます） (1月21日 21時) (レス) @page13 id: 28d438705b (このIDを非表示/違反報告)
アイ(プロフ) - 毎日更新楽しみにしてたので感激です！タイトルに惹かれて来たのですがもう予想通り最高の作品でした💕最後の最後まで本当に読むのが楽しかったです！😆これから全力で応援させていただきます‼️🥰 (1月21日 21時) (レス) id: ce556c25c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：矢崎 | 作成日時：2023年12月21日 23時
