「がむしゃらに走った先に」 ページ8
東京に静寂な夜は訪れない。肌寒くなっても空に星が現れない代わりに煌めくネオンが街中を賑やかに照らしてくれていた。
「本当にいいの？」
「はい！いつもA先輩にはお世話になっていますので」
小野くんと食事の約束をしてから二週間後。今日は小野くんおすすめの海鮮が有名な居酒屋に連れてきてもらい、お会計までスムーズに支払い済みだ。
「そしたらお言葉に甘えて。ありがとう、ご馳走様です」
終始楽しくてお腹を満たした食事会に満足した私はお礼を口にすると小野くんは目を細めて笑っていた。
その笑い方がどうしてもチャニと重なってしまい、不自然に顔を背けてしまった。
あれから携帯に知らない番号から何度も着信があった。でも私はその電話を取る気にはなれず何度も見過ごした。
これで良かったのだ、と自分に言い聞かせて。
私には私の世界があって、チャニにはチャニの世界がある。その二つの世界は決して交わってはいけない。
日本と韓国。一般人とアイドル。私たちの見えない壁は想像以上に分厚くて、とてもじゃないが越えられそうにない。
「A先輩、まだ時間大丈夫ですか？もし良ければこの近くに僕の行きつけのバーがあって…」
「っ、A！！！！」
小野くんの口から続くであろう言葉たちは私の名前を叫ぶ声で掻き消されてしまう。
いつも画面越しから聞こえてきた愛しい声が私の鼓膜を震わせる。心臓をぎゅっと掴まれたような苦しさが留まる。
後ろを振り向くとそこには息を切らしたチャニがいた。肩で息を整えるチャニは私から一切視線を逸らさない。
「…え？せ、先輩の知り合い？ですか？」
帽子とマスクで変装している男が突然私の名前を叫ぶという異常行為の一部始終を見ていた小野くんは目を丸くさせ困惑している様子だった。
「ど、どうしてここに…」
私の言葉は最後まで言わせてもらえなかった。近付いてきたチャニに腕を掴まれ、そのまま私は半ば強引に連れ攫われてしまった。
ワンテンポ遅れてから背中に小野くんの制止する声がやって来た。だけど私は後ろを振り返ることはなかった。
チャニの背中から目が離せなかった。あの頃より逞しく、大きくなった背中に鼓動が乱れ始める。熱に浮かされた私は淡い期待を抱いてしまいそうになる。
「ま、まって…！もう、走れないよ…っ！」
街中から少し離れたそこは人の気配はなく、閑散とした場所で彼はようやく足を止めた。見覚えのあるそこはチャニとふたりで過ごしたあの公園だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 460人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
矢崎(プロフ) - さくさくさん» さくさく様、最後まで読んでいただきありがとうございます ❤︎ 題名の仕掛けにも気付いてくださり流石です〜！！完結作品が一つ出来てホッとしています（笑）今後の作品も是非見守っていて下さると幸いです😌🩶 (1月26日 15時) (
レス) id: 28d438705b (このIDを非表示/違反報告)
さくさく - 完結おめでとうございます！！題名に仕掛けがあること あれ？もしかして？ と気になってうずうずしていたので やっぱり〜！！ なんて1人で盛り上がっていました笑 毎話毎話楽しみにしていたので完結してとっても嬉しいです😊本当におめでとうございます🤗 (1月26日 0時) (レス) @page11 id: 8125d01b3c (このIDを非表示/違反報告)
矢崎(プロフ) - アイさん» アイ様の記憶に私の書いた🐺が少しでも残ってくだされば嬉しい限りです。本当に最後までお付き合いいただきありがとうございました！！！今後も惹かれる作品を書いていけるよう精進します😌🩶 (1月21日 21時) (レス) id: 28d438705b (このIDを非表示/違反報告)
矢崎(プロフ) - アイさん» アイ様、ご愛読・コメントありがとうございます！！！タイトル名をつけるセンスが私には皆無だと思っていましたので、アイ様が読むきっかけになってもらえて光栄です ❤︎ （続きます） (1月21日 21時) (レス) @page13 id: 28d438705b (このIDを非表示/違反報告)
アイ(プロフ) - 毎日更新楽しみにしてたので感激です！タイトルに惹かれて来たのですがもう予想通り最高の作品でした💕最後の最後まで本当に読むのが楽しかったです！😆これから全力で応援させていただきます‼️🥰 (1月21日 21時) (レス) id: ce556c25c3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：矢崎 | 作成日時：2023年12月21日 23時
