「みっともない私を隠して」 ページ4
真夜中の公園に沈黙が流れる。どうしてこんな時間にコンビニに寄ってしまったんだろう。そのまま素直に帰宅しとけば良かった。
目の前にいる彼は世界的人気なアイドルでもあり、青春時代を捧げて過酷な練習を一緒に乗り越えた戦友でもある。
でも今となってはただの一般人とアイドルだ。こんな所を誰かに撮られたりでもしたらチャニに迷惑がかかってしまう。
「チャニ、早くホテルに戻りなよ。明日も公演あるんでしょ?」
「…僕たちがツアー中なこと知ってるの?」
最初に沈黙を破ったはずが疑問系で返される。それはみんなの公演を欠かさずチェックしているからだ。何ならチケットが取れた日なんて大喜びしてる。そんなことは口が裂けても言えないけど。
「…たまたまテレビで見かけたから」
ぶっきらぼうに答えればチャニは困ったように眉を垂れさせた。久しぶりに会えたのにそんな顔をさせるつもりはなかった。
どうして素直になれないんだろう。私もチャニに会えて嬉しいよ、って。たったそれだけの言葉が喉の奥でつかえてる。
「じゃあ、私はもう行くから」
これ以上は埒が明かないと察した私は立ち上がろとした。しかしチャニに腕を掴まれ、その場に引き止められる。
「…A…行かないで…」
チャニの目から一筋の涙が頬を伝う。私はあまりの衝撃に目を見開く。
「これでバイバイなんて…したくないよ…」
あのチャニが弱音を吐いている。常に自分にストイックで、リーダーとしてメンバーに厳しい面も見せているあの彼が私に対して弱気でいる。
その事実がどうしようもなく嬉しくって、あがりそうになった口角を必死に抑える。
「…これ、私の番号」
私はポケットから携帯を取り出し、チャニにある画面を見せた。そこには私の携帯番号が表示されている。
「え?」
「別に必要ないなら構わないけど…」
私が携帯をポケットに仕舞う動作を見せれば、チャニは慌てて私から携帯を奪い、自分の携帯に私の番号を打ち込み始める。
その姿が子供みたいに可愛らしくて、彼に気付かれないようくすりと笑った。
「A、ありがとう」
チャニは嬉しそうに携帯を握り締め、くしゃりと笑う。すっかりお互いの涙は引っ込んでいた。チャニも立ち上がると、再び彼の腕の中へ閉じ込められる。
「絶対に連絡するから」
化粧が施されていない彼の笑顔はあの頃と変わらないままだった。
もし変わらないものがあるとするなら、それは彼の眩しい笑顔と私の叶わない想いだろう。
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矢崎(プロフ) - さくさくさん» さくさく様、最後まで読んでいただきありがとうございます ❤︎ 題名の仕掛けにも気付いてくださり流石です〜!!完結作品が一つ出来てホッとしています(笑)今後の作品も是非見守っていて下さると幸いです😌🩶 (1月26日 15時) (レス) id: 28d438705b (このIDを非表示/違反報告)
さくさく - 完結おめでとうございます!!題名に仕掛けがあること あれ?もしかして? と気になってうずうずしていたので やっぱり〜!! なんて1人で盛り上がっていました笑 毎話毎話楽しみにしていたので完結してとっても嬉しいです😊本当におめでとうございます🤗 (1月26日 0時) (レス) @page11 id: 8125d01b3c (このIDを非表示/違反報告)
矢崎(プロフ) - アイさん» アイ様の記憶に私の書いた🐺が少しでも残ってくだされば嬉しい限りです。本当に最後までお付き合いいただきありがとうございました!!!今後も惹かれる作品を書いていけるよう精進します😌🩶 (1月21日 21時) (レス) id: 28d438705b (このIDを非表示/違反報告)
矢崎(プロフ) - アイさん» アイ様、ご愛読・コメントありがとうございます!!!タイトル名をつけるセンスが私には皆無だと思っていましたので、アイ様が読むきっかけになってもらえて光栄です ❤︎ (続きます) (1月21日 21時) (レス) @page13 id: 28d438705b (このIDを非表示/違反報告)
アイ(プロフ) - 毎日更新楽しみにしてたので感激です!タイトルに惹かれて来たのですがもう予想通り最高の作品でした💕最後の最後まで本当に読むのが楽しかったです!😆これから全力で応援させていただきます‼️🥰 (1月21日 21時) (レス) id: ce556c25c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:矢崎 | 作成日時:2023年12月21日 23時