アイドルを諦めた君へ

「また君に会えたらいいな」 ページ1

「Aの声質はグループには活かせない」

パク・ジニョンPDニムから告げられた言葉はあまりにも残酷で、グループでアイドルを目指していた彼女にとって死刑宣告を言い渡されたも同然だ。

画面越しに映るAの姿を情けないが最後まで見ていられなかった。今にも泣き出しそうな彼女は必死に涙を堪え、浴びせられる言葉の刃を健気に受け止めていた。

《新たな9人組ガールズグループ、TWICE誕生》

そうしてTWICEになれなかった彼女は母国である日本へ帰ってしまった。

「チャニならみんなから愛されるアイドルになれるよ」

君を忘れられない呪いを残して。



あれから8年。

TWICE先輩の3年後に無事デビューを果たした僕はStray Kidsのリーダーとして日々奮闘している。

彼女が今どこで何をしているかは分からない。風の噂さえ僕の耳に入ってこない。同じ日本人メンバーとして当時Aと仲の良かったミナに聞いても言葉を濁され、結局分からず終いだ。

連絡先は残っているが随分前にエラーと表示された画面が今でも虚しく思い出される。

もう彼女との繋がりが完全に閉ざされてしまった。

あの頃はいつも一緒に練習して、お互いに励まし合って、夢に向かってがむしゃらに突っ走ってきた。

「チャニ、絶対アイドルになろうね」

僕に向ける君の笑顔は誰よりも輝いていて、とうの昔から君の一番のファンであった。僕は二度とAには会えないんだろうか。

「チャニヒョン、もうそろそろですよ」

隣に居たリノから声がかかる。どうやらいつもの癖で感傷に浸っていたみたいだ。僕の前から消えたあの日からAを忘れたことなんて一度もないよ。

「そうだね。みんな準備OK？」

ステージ裏にメンバーが集まる。円陣を組み、みんなが僕の言葉を待つ。会場から聞こえてくる歓声に僕たちは応えなければいけない。

僕たちはアイドルだ。

僕たちの歌やパフォーマンスでみんなに笑顔を運ぶ。幸せな時間を過ごす。感動を共有する。

「STEP OUT！僕たちはStray Kidsです！！！」
天井まで突き抜ける歓声が会場全体に響き渡る。ペンライトの光がゆらゆらと揺れて海の中にいるみたいだ。

この光景をAにも見せてあげたい。あの頃より成長した僕を見てほしい。僕だけを見てほしい。

ねえ、A。僕はみんなから愛されるアイドルになれたのかな。君に会ってあの日の答え合わせがしたいよ。

これはアイドルを諦めた君と
アイドルとして生きる僕の物語

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