トリップ３７ ページ46
「狼谷吊戯…！」
「逃げろ…！！」
蜘蛛の子を散らすように下位達が逃げていく。
「くそっ」
「きゃ…っ」
腕を拘束していた吸血鬼が私を突き飛ばして逃げ出した。
「吊戯！さっさと捕縛しろ！」
「わかってるよ、弓ちゃん」
黒い影の様なものが逃げ出した下位達を貫き、地面に押さえつける。
数秒の出来事に頭が追いつかない。
今の、何…まず、この人たちは、敵？味方？
「大丈夫か？」
金髪の男の人がライフルの様なもの片手に近くにくる。
「貴方達は、敵ですか、味方ですか？」
ナイフを向けるも、手が震えてる。
血が出すぎてるんだ。
「弓ちゃん怖がらせちゃだめじゃーん」
「あぁ！？」
「大丈夫だよ、僕達は君の味方だ、とにかくその傷の手当てしよ？」
ね？とへら、と笑いながら首を傾げる男の人。
悩んでいる間に目まで霞んできた。
本気でやばいな、と思えば意識が遠のきそうになる。
前のめりに倒れこめば誰かに支えられる感覚。
「ごめん、ね…」
椿…、と声にならない声でつぶやけば、下駄の音が遠くに聞こえた。
【吊戯side】
「…今…」
この子、椿、て言った…？
「？吊戯、どうした」
「いや、何でもない、行こう」
気のせいかな、と思いながら女の子を抱き上げる。
最近、椿の所に出入りしている不思議な女の子がいる、と報告は受けている。
監視しようにも見つけられず、手を焼いているのだとか。
まさか、な。
本部につけばストレッチャーと医療班が待ち構えており、女の子を預ける。
「やっとひと段落ついたな」
隣で弓ちゃんがそう呟いて伸びをしている。
「そうだね…」
なんだろう、何か、ずっと引っかかってるんだけど、何かわからない。
「…どこか悪いのか？さっきから様子が変だぞ、お前…」
心配そうにこちらを覗き込む弓ちゃんに大丈夫だよ、と笑いかける。
きっと、気のせいだろう、と思いながら。
【椿side】
最悪の事態だ。
Aが時間になっても帰ってこない上に様子を見に行けば、狼谷吊戯と一緒にいる。
僕ひとりじゃ、傷を負ってるAを連れて逃げるのには無理がある。
ギリ、と歯を食いしばる。
"あちら側"には、Aが僕の主人であることは伝わっていないはず
Aを下位に襲われた一般人だと思えば、関係のある病院へ運ばれるはず
そうなればこちらも動きやすい。
それまでは、定期的に限界距離の範囲内に通うことしか出来ない。
「A…っ」
絶対に助け出してみせるから…それまで、待っていて…っ
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作者名：霧島沙羅 | 作成日時：2017年6月2日 14時
