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『 小瀧くんバイトとかしてへんの? 』

「 んーん。そろそろやらないかんなーっては思ってるんですけどね 」

『 バイトはしといた方がええよー。勿論お金を稼ぐ為でもあるけど、ほら人生の経験として大事やろ 』

「 Aさんは何かしてました? 」

『 んー、1、2年の時はぼちぼちって感じやったな。
パン屋とか、コンビニとか色々やってた。
殆ど上手くいかんくてすぐ辞めてもうたけど 』

「 …………プールは? 」

『 あープールは確か1年の時やったかなぁ。
大毅が誘ってくれたんよね確か 』

「 ………………………そか 」

『 ? 』


明らかに彼の声のトーンが下がったのが分かると手を動かしたままチラリと彼を見た。
いつもは穴が空くくらい私から目を逸らさない彼だが今日は何だかその視線は中々合うことも無い。

散々鈍いと言われてきた私でも分かる。
さっきから様子が変だ。何かまた考え過ぎてしまっているのか。


……………触れるべきか否や、悶々としているうちに数分経つ。
流石に痺れを切らして彼の様子を見ようとカウンターの方に目を向ける。

が、先程までそこに居た彼が目の前から消えていた。




『 っ、』


そして驚く暇もなく背中に感じた衝撃に心臓が跳ね上がる。
この感覚が恐ろしいほど懐かしく感じる。





『 小瀧くん、いつの間に、』

「 ………………、」

『 危ないって、包丁持ってるから 』

「 ……………………………嫌や、」



"俺の知らないAさんがこれまでもこれからももっともっと増えていくことがこの上なく嫌なんや、独り占めしていたい"


今まで以上にお腹に回された手に力が込められる。
彼の言葉に気を取られ思わず手元が狂う。


『 いっ、たぁ 』


…………………ぷつり。
刺激を感じた方に目を向けると自分の人差し指から滲む生々しい赤色。

あーあ、やってもうた…………



「 Aさんドジ 」

『 誰かさんがいきなり抱き着いてくるからやろ………も〜 』


痛い痛いと指を押さえながら絆創膏を求め棚の上にある救急箱を背伸びをして必死に取ろうと手を伸ばした。

あれ、脚立どこ行ったんやろ、






「 それ、貸して 」

『 貸す?どういうこと、 』




私の言葉を遮るようにして少しだけ出血していた人差し指は躊躇いもなく彼の口内に入った。


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作者名:むんく 。 | 作成日時:2019年8月15日 15時

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