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「一緒帰ろう」そう言われて、いつもは1人の帰り道も、今日は隣に侑くんがいる。
帰り道とは言っても、お互い寮だから10分程度の距離。
ずっと喋り続けている侑くんに「そうなんだ。」なんて面白みにかける相槌をし続けた。そんな相槌にも侑くんは、楽しそうに今日あった出来事を話している。
侑くんの話を聞いてる頭の片隅で、歩道側を歩いていることや私の歩幅に合わせてくれてることに気づき、『侑くんって優しいな。』なんて思っていた。
「Aちゃん、なんか焦ってるん?インハイやから?」
突然そう聞く侑くんの表情は、さっきまでの笑顔ではなく、心配しているような顔だった。
部員の誰1人として、私が焦っていることに気づかなかったのに、侑くんが気づくなんて凄いななんて思った。
『焦ってるのバレちゃってた?去年の最後の大会、県予選決勝で負けたんだ。全国優勝候補なんて言われてたのに。毎日、そのことが頭に浮かんで焦ってるの。』
私は、重い空気にしたくなくて軽く笑いながら『情けないよね』なんて言う。
しかし、そんな私に対して侑くんは真剣な表情をして私を見つめていた。そんな侑くんには少し恐怖すら感じた。
「思い出なんかいらん」
侑くんのその言葉を聞いた瞬間、腑に落ちたような、心に沁みたようなそんな気がした。
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作者名:吉田 | 作成日時:2024年3月25日 19時