風呂場とライト【鳥葦翔真】

うしろめ ページ41

私はその言葉の意味を理解した瞬間出ていこうとした女の手を瞬時に掴んだ。


否、掴もうとした。


私が伸ばした手はたしかに手中に女の細く白い手首をおさめていたのに、ふっと取り逃した。


後ろに目が着いているのか。


そう思った瞬間、私はそう思った人間がもう1人いることに気付く。


反対側をむく姿にカメラを構えた瞬間、バチりと目が合う。

深山霧島



彼もそうだった。後ろに目が着いているのか疑うくらい周りが見えていた。


1度もこっちを見ずに歩いていく彼女。


小柄で細く白い肌。痛みを知らないかのような美しい髪。それなのに目の中には全く光がない。


この店の店員の服装は肌の露出も決して多くないのにこの女だけは、透けているように見える。




「もしかして、あんた深山霧島を知ってるの？」




私は無意識にそうこぼした。


そして彼女は立ち止まった。意外だった。


整った顔をこちらに向けた時、女の眉間にはシワがよっていて何処か幼く見えたような気がした。



『…で？』



さっきの声同様、少し低い声で一言そう言われた時私は蛇に睨まれた蛙如く言葉につまった。



「い、今の話深山霧島に言うつもりじゃ」



『ない。そこまでの仲じゃない』



するりと訛りのない標準語とともに淡々と告げる。この人、どこ出身の人なの？


全く分からない。今話してるのに、何も分からない。



『アンタ、マリファナほんまにやったん？』



そしてそう聞かれて私はぎょっとした。



しまった。顔に出た。



少なくともそう疑われる節はあったことがバレた。



「や、やってない。そう疑われる節はあったかもしれないけどやってない。」



すると女は、ついに心底落胆したとでも言うかのような顔で私を見てから本当に出ていってしまった。



「…は、」



呆気に取られて私は動けない。


どういうこと。


私が嘘をついたから落胆したの？


それとも、





マリファナをやってないから落胆したの？





・



これだからダメだ。東京の女って。


根性とか覚悟とか微塵もないのに危ない場にホイホイ着いていくから上手く手取りに取られるんだよ。


決して薬を評価する訳じゃないが、薬をやれるほどの根性があるなら…と考えることはたまにある。


単発のバイトで兵庫まで来たのにまた深山霧島の話が出てくるなんて。


アイツ気持ち悪いな…。



そう思いながら私はバイトに戻った。

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