完璧主義者【d!】 (ページ22)

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静かな空気が流れる。グルさんはどこか遠くを見ていて、なんだか悲しそうだ。

「あー、なんでそんな悲しそうなの」

言いながら目線を下げてしまう。自分が悲しい顔をしては意味が無いことは分かっている。しかし、彼が悲しい顔をするぐらいなら私が代わりになった方がいい。そう思えた。

グルさんは少し笑って紅茶を飲んだ。優雅な香りが部屋に行き渡る。彼はティーカップを置き、少し息を吐いた。

「なんだか寂しくてな。Aが、どこか遠くに行ってしまったような気分だ」

「どこか遠くって？私はどこにも行ってないけど…」

「どこか遠く」そう呟いて、グルさんはまた紅茶を口にした。

どこか遠くとは、どこだろう？その疑問が私の頭の中をグルグルと回る。実際には出かけていないのだから、比喩だろうか。だとしたら、何を意味してる？

グルさんはいつもそうだ。直接的にものを言わない。必ず、遠回しに、分かりずらく、悟られないように難しい表現をする。それか、ただ単に私の頭が弱いのかもしれない。圧倒的に後者の割合のほうが高いのは明らかだ。

「私は、遠くになんて行かないよ。いつもそばにいる」

いつの間にか口から出た言葉だった。でも、嘘はない。グルさんは一瞬目を見開き、また悲しい顔に戻った。

「それは、『任務』をこなすためか？」

私は口を紡ぐ。グルさんはこちらを見ている。自虐的に笑い、続けた。

「俺が契約を破棄すれば、お前はいなくなってしまうのか？」

私がみんなと仲良くしたいと思うのは、任務のためか？私がここから離れたくないと思うのは、任務のためか？

自分に問う、「それはお前の意思か」と。

「…契約なんか、私を繋ぎ止める一つの手段に過ぎないよ。私は、ここにいる、ここにいたい。これは私の意思」

その言葉を聞いたグルさんは、安心し切った子供のように笑った。彼は椅子に座ったまま手招きをした。私は立ち上がり、彼の近くに寄る。

グルさんはそっと私を抱きしめた。

一瞬戸惑ったが、私も彼の背中に手を回した。肩に顔を埋める彼は、子供のようだ。片手で頭を撫でると、抱きしめる力が強くなる。

「よーしよーし」とふざけて言うと、彼は笑った。耳元で笑われるとくすぐったい。

「じゃあそろそろ」

「ああ、そうだな。また夕食時に会おう」

私はグルさんの部屋を後にし、部屋に戻り、ベッドに寝転んだ。

離れた時の、彼の寂しそうな顔が思い出される。何故あの時、あんな顔をしたのか。知るのは彼だけである。