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1話 ページ1

秋の日特有の涼風が、一段と強く、その場に吹き荒れた。欅の木にぶら下がっていたはずの紅葉達は、風に誘われて空中で存分に踊り狂う。それからゆっくりと舞い落ちる先は、数え切れないほどの先客で埋め尽くされていた。

 そんな地面を踏み固めながら、僕は欅の木の下で香箱座りをしている一匹の猫に近づいていく。

 寝ているようだし、すこし撫でるだけでも……と思い、忍び足で足を進めるが、やはり当然野生の勘……いや、猫の勘というのは侮れないらしい。

 五メートルも近づかないうちに、三毛猫の彼はにゃーん、と鳴いて僕の方を見つめ返してきた。


「……ばれたか」


 苦笑して、僕は猫に手を差し伸べる。「ほら、おいで」と言うと猫は目前へとやってきて、僕の両手に頬ずりを始めた。

 可愛らしい光景に、僕は思わず頬を緩める。

 いちいち行為があざといと言うか、なんと言うか……自分の魅せ方をよく分かっている猫だ。不思議なまでに賢いし、普通生者には見えないはずの死神の僕を、何故か認識できている。

 初めは僕と同じ死神の同僚かとも思ったけれど、猫に返信できる特質を持った死神なんて聞いたこと無いし、結局そういうものだと思って受け入れることにしたのだ。


◇◆◇


「……」


 だが、流石に今の状況には僕も混乱せざるを得ない。

 こちらを見て微笑む彼女に、僕は何とか愛想笑いを返していた。

 無理矢理上げた口角に、頬が悲鳴を上げ引き攣っているのが嫌でも分かる。


 ……何故僕の姿が見えている?


 つい先程いきなり話しかけられ、固まっている僕に現在進行形で「……大丈夫?」と声を掛けているのは、まだ十五前後であろう少女だ。

 掻き乱された僕の平常心は、一向に落ち着く気配を見せない。

 ただ、少女は……心配そうに、僕の両目をまっすぐに見つめている。


「いきなり話しかけちゃってごめんなさい。ただ、珍しくって」


 そう言っている彼女の目には、やはり僕の姿は映っていない。鏡にも映らないように、やはり僕の姿が見えるはずないのだ。……そう、生者には。


「えっと……珍しい?」

「えぇ、その猫が」


 僕は彼女につられて、手元にいる猫に視線を落とした。


「私以外の人に懐いているのを見たことが無かったから、つい」

「……」

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作者名:蒼嶺柘榴 | 作成日時:2022年10月3日 1時

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