五十六話 ページ8
長谷部side
「主、これ、あの人のご飯なんだけど……。お粥くらいなら食べられるかなって……、」
「お、悪いな 光忠。わざわざ ありがと。いいよ、これは俺が持っていこう。無理して許してやる必要も仲良くしてやる必要も無いさ。」
「あ、ありがとう…」
……。
主は、そういう所がある。自分を愛してくれるなら どんな者でも良い、そんな所が。
今だって、あの葵という男を
殺さないどころか、看病している。
無論、俺達 刀剣男士があの男に心を許していないという心情を汲んで、主 自らが看病してくれているのだろうが、それにしたって あの男に あそこまで世話を焼いてやる必要があるだろうか。
主自身も嵌められ、袮々切丸も傷つけたような奴だ。
本来の主ならば、あの場で助けずに殺していただろうに。何故。
言っておくが、これは主に対する嫌疑などではない。純粋な疑問だ。
何故 そこまで愛されることに貪欲なのか。
ここにいる全ての刀剣男士が主のことを慕い、好いているというのに、それでもまだ足りないというのか。
時々 主のことが分からなくなる。
しかし そうであったとしても、
俺達はただ主に尽くすのみ。
自分が認めた主を慕うのに理由なんて要らない。
実際、このお方は主としては申し分ない。
豊富な知識と技術、
それを実行に移すことが出来る技量、
そして大きな器を持っていらっしゃる。
このような人にはなかなか出会えない。
俺はそれを知ってる。
だから今が、とても幸せなのだ。
「あれ、長谷部君 どうしたんだい？そんな所に突っ立って」
「…いや、何でもない。」
「？ なら良いけど。……嗚呼 そうだ、今から昼餉のうどんを作るんだけど、長谷部君 手伝ってくれるかい？」
「うどんか。よし、任せろ」
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葵side
酷い人だ。
あんな惨い事しても尚、怜尾さんは俺に甘言を吐く。
殺されても可笑しくない俺に、
生きて自分を愛せと。
きっと彼にとっては自己満足だ。
だけど俺にとっては、それが生きる意味となった。
怜尾さんの過去は以前 調べさせてもらった。
幼少期に親から愛されなかったというのは、
大人になってから愛されないのとはわけが違う。
心を蝕み、重く響き続ける。
だから あの人は愛に貪欲なんだ。
無意識に愛を求めてしまっている。
きっと俺がどんなに愛しても、
あの人は愛を求め続けるんだろう。
薄情で、優しくて、脆い、酷く魅力的な人。
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作者名：駿河 | 作成日時：2017年12月16日 14時
