五十三話 ページ5
審神者side
数十分とも思えるような数十秒の
重苦しい沈黙が続く。
瀬登太刀と柏太刀の射抜くような視線が突き刺さる。
少し強引過ぎたかと若干 後悔しているが、
ここで機嫌を取りにいったって後手に回るだけだ。
これでダメなら、武力行使も仕方ない。
「……はぁ、」
「…ﾁｯ 」
二振が漸く口を開いたと思えば、
盛大な溜息と、舌打ちだった。
傍に控えている三日月や一期が構えるのが分かった。
「………貴様のその言葉と想いは本物だ、それは認めてやる。だが、袮々切丸を連れて帰るとなれば話は別だ。此奴はもう、自力で自分の神域に戻ることすら出来ない程に衰弱している。どちらにせよ、一度 こちらの神域に連れて帰る。貴様の治癒では間に合わん。」
「……。」
「そんなに睨まないで欲しいな。なにも この子を君達から永遠に遠避けよう、なんて言ってないだろう？」
「袮々切丸が目覚めたとき、斯様な酷い仕打ちを受けて尚、それでも此奴が貴様のもとに戻りたいと言うのであれば。その時は、貴様らにもう一度だけ機会を与えてやる。」
全ては袮々切丸の意思次第ってことか…。
いや しかし、
これは どう考えたって俺達に不利な賭けだ。
こんなに酷い目にあって、人間不信になっていたとしても可笑しくないようなあいつが、俺のもとに戻ってきたがるとは、到底 思えない。
その上、一度でも あの二振と共に居心地の良い神域に戻れば、更にその可能性は低くなる。
二振が袮々切丸に甘言を吐いて、誘惑することだって十分に有り得る。
だから 現段階で連れて帰りたかったんだ。
だが、––––––––
「…分かった。袮々切丸を、宜しく頼む。」
「……。ほぅ、随分と余裕だなァ？」
面白くないというような表情をする瀬登太刀。
そんな彼を宥める柏太刀。
この二振も、袮々切丸が大好きなんだろう。
根はいい奴に違いない。
そうでなければ、
逆にこんな惨事にはならなかったろう。
「…まぁ いいさ。後は此奴が決めることだ。」
「そろそろ行こう。取り返しのつかない事になる。」
「そうだな。」
そう言うと 二振は袮々切丸と共に消えていった。
俺達なんか目にもくれず。
なんだか、心にぽっかり穴が開いたみたいだった。
やっぱり、少し寂しいもんだな。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 83人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：駿河 | 作成日時：2017年12月16日 14時
