六十八話 ページ20
審神者side
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「山金造波文蛭巻大太刀だ。袮々切丸と呼ばれることの方が多いな。…今代の主よ、私の力、存分に振るっておくれ。」
桜が舞い散る。
長かった艶の良い黒髪は、
肩につく程度に短くなった。
大きかった血と紅玉を混ぜたような瞳は、
切れ長になって鋭さが幾分増した。
鈴のようだった綺麗な声は、
色気のあるハスキーボイスになった。
俺より低かった身長は、
俺を遥かに超えた。
それは 立派な刀剣男士だった。
しかし 姿形は違えど、間違いなく袮々切丸。
やっぱり、息を呑むほど美しかった。
「ゎ、どうした主。いきなり抱擁とは…私のこと、お気に召されたか？」
そう言いながら、俺を抱きしめ返してくれる。
“ 主 ” と、そう呼ばれたのが、哀しくなる。
「来てくれて、ありがとう。」
「……。馬鹿だなぁ主は。主が私を呼んでくれたのだぞ？」
俺の頬を両手で包み、
それはそれは嬉しそうに笑うのだ。
「私の方こそ、ありがとう」と。
「私は今まで社に籠っていて 誰かに仕えたことなどなかったからな、主と呼べる者ができて嬉しいのだ。」
「…そっか！俺は怜尾だ。よろしくな、袮々切丸。」
「嗚呼、よろしくな 主。」
そういえば、あっちの袮々切丸にだって こんなちゃんとした挨拶してなかった気がする。
袮々切丸を見ると、見るもの全てが珍しいというようにきょろきょろしている。
やっぱり、天真爛漫なところは変わっていない。
さっきも俺のことを「馬鹿だ」と言ったように、
毒舌なところも変わっていない。
「ん？私の顔に 何か付いているか？主に会うので身なりには気を付けたつもりだったのだが…」
「いいや、お前は綺麗だよ、袮々切丸。」
「っ…、狡いなぁ お前様は、」
ひらり、
小さく桜が散った。
赤く頬を染める袮々切丸。
流石は大太刀、１９０はあるだろう。
だが、可愛い。どうしようもなく可愛い。
さっきも、俺に会う為に粧してきたって言ってた。
どんだけ 俺のこと好きなの。
嬉しいような、嬉しいような、
哀しいような、嬉しいような。
「行こう、袮々切丸。皆 お前を待ってる。」
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作者名：駿河 | 作成日時：2017年12月16日 14時
