六十五話 ページ17
袮々切丸side
「もう行ってしまうのかい？」
「っ……なんだ、気付いてたのか。」
「僕だけじゃないさ、勘の良い者達は気付いてる」
「…そうか。」
皆が騒ぎ疲れて寝静まった夜、
私はこの本丸から去る為に 広間を出た。
皆 眠っていると思っていた。
「気付いたのなら、お前も皆と同じように眠ってくれていれば良かったのに。」
「ふふっ 、君に伝えたいことがあって。ほら、君は人気者だから、こうして皆が寝静まってからでないと相手にしてもらえないだろう？」
「意地の悪い言い方をする…」
そう言って 私は髭切の横に腰を下ろした。
この縁側に座るのも久しぶりだった。
此処でよく日向ぼっこをした。
三日月と菓子を食べた。
鶯丸と茶を飲んだ。
乱に髪を弄られた。
他にもたくさん……。
「…君はまだ、あの時 僕に殺して欲しかったと思っているかい？」
「……。いいや、今は 思ってない。」
「そう、良かった。それが聞けただけで、僕は満足だ。」
「皆に会えて、良かったと、そう思っている。」
「そう…。僕がした事は間違ってなかったんだね。」
そう言った髭切の声は、いつもの間延びした声ではなく、少し震えていた。
嗚呼 きっと、この刀も責任を感じてるんだ。
「君は酷く傷つけられた。僕があの時 主の命を無視して君を殺していれば、君はあそこまで傷つかなくて良かったんだ。…今更 悔やんだって仕方ないんだけどね。」
「あの時 殺されていれば、こうしてお前と話すこともなかったさ。」
こんな、温もりや優しさを知ることもなかった。
たくさんのものに感動することもなかった。
それは、私がまだ生きているから。
「…そうだね。」
「嗚呼、あれで良かったんだ。」
「うん。………引き留めて悪かったね、ほら、もう行きな？お迎えが来てるよ。」
「ぁ…、」
髭切のその言葉に 視線をやると、
瀬登太刀と柏太刀が門の前に立っていた。
私は立ち上がり、髭切の手にそっと口付ける。
「どうか、僕達のことを忘れないで欲しいな。」
「勿論、私の大事な思い出だからな。」
「うん、」
「じゃあ、…お前達の未来に幸多からんことを。」
そっと手を離し、二振りのもとへ向かう。
振り返りはしない。
最期くらい、綺麗に決めたいじゃないか。
．
．
．
「ありがとう、主、皆……」
さようなら、私の宝物。
．
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作者名：駿河 | 作成日時：2017年12月16日 14時
