六十三話 ページ15
審神者side
「……それは、出来ない。」
はっきりと、しかし 苦しそうに そう言った。
名前で呼ばれることが、こんなにも寂しく感じたことが今まであっただろうか。
「…私は、お前を信じて受け入れることが出来なかった。そんな自分が許せない。…それに、お互い好いているのに、触れることすら出来ない。こんなの、一緒にいたって悲しいだけだ…」
「…え、？…それって、」
「嗚呼、私は此処に帰ってきたわけじゃないんだ。期待させてしまって申し訳ない。だから どうか、この身勝手な私を赦さないで欲しい。…私は、お前達に別れの挨拶をしに来た。」
「…っ 」
頭を鈍器で殴られたような衝撃を受ける。
思考が追いつかない。
いや、理解したくない と言った方が正しい。
「すまない…」
「そんな…っ 」
思わず袮々切丸の腕を掴もうと手を伸ばした。
しかし、それは虚しく空を切る。
「私も怜尾に触れたい…触れて欲しい。だけど、身体が勝手に拒んでしまう。……怖いんだ。人間に触れられるのが。」
「……。」
「ごめんなさい。」
言葉が出ない。俺は、何と言えば良い？
袮々切丸が謝る必要なんて何処にも無い。
こうなってしまったのは全部 俺の責任だ。
だから、
引き留めることも、出来ない。
そんな資格は無い。
どうしようもなくもどかしい感情が、
行き場を失い 俺の中で駆け巡る。
「怜尾、」
優しく そう呼ばれる。
顔を上げると 目の前の袮々切丸も、
泣きそうな顔をしていた。
「私は、お前に出逢えて良かった。お前が私の主で良かった。私の、最初で最後の主。…ありがとう」
「……俺も、お前に逢えて良かった。」
「うん。……私は自分の神域に戻る。今の “私” とはさよならだ。そこで二つほど、怜尾に頼みたいことがある。…頼まれてくれるか？」
「嗚呼、任せろ。」
「…ふふっ 、ありがとう。」
「私は–––––––––––––
．
．
．
．
「…お前は、それで良いんだな？」
「嗚呼、どんな形であれ、お前の側に居たいと思う」
「そっか…解った。」
「ありがとう。」
．
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作者名：駿河 | 作成日時：2017年12月16日 14時
