六十二話 ページ14
審神者side
「……お、…れお、」
「…んん…？」
誰かが俺の名前を呼ぶ。
声の主は誰かと、まだ覚醒しきっていない頭で考えながら、寝起き特有の気怠い体を起こした。
「怜尾、遅くなってすまない。」
「–––––––––– え、」
俺の傍に座り、微笑んでいる そいつ。
綺麗に笑うその刀。
「袮々切丸…！！」
「嗚呼、」
俺達が待ち望んでいた、
袮々切丸の姿がそこにあった。
最後に見た あの惨たらしい姿はもうそこには無く、
もとの綺麗な姿に回復していた。
嗚呼 どうしよう、嬉しすぎてどうにかなりそう。
今の嬉しさを表せる言葉が俺には思いつかない。
語彙力ないから。
「そんなに喜ばれてしまうと、…困るな。」
そう言って 袮々切丸は笑った。
……本当に困ったように。
でも 俺はそれに気付かない。
今はただ、帰ってきてくれたことが嬉しかった。
「ふふっ 、すまないな。長いこと待たせてしまった」
「そんなっ 、謝らないでくれ。謝らなきゃならないのは俺の方だ。俺の不注意と力不足の所為で、お前をあんな酷い目に合わせちまった。本当にすまなかった。……それから、帰ってきてくれて、ありがとう。」
「…嗚呼 」
また、力無く困ったように笑った。
今度こそ、気付かないフリをした。
知りたくはなかったから。
ただ、目の前にこいつがいることが
心底 嬉しくて、抱きしめた。
「っ、！」
そこで やっと明確に気付かされる。
いや、予期していたことが現実になってしまった、
というべきか…。
「……すまない。身体が、言うことを聞いてくれないんだ。…私はお前のこと、嫌いじゃないのに。……ははっ 、難儀なものだな、人の身のは…」
袮々切丸は震えていた。
嬉しくて、なんて可愛い理由なんかじゃない。
袮々切丸は、……俺に怯えている。
正確には 人間に。
「…悪い、俺の方こそ無神経だった。」
「……」
「気にするな、仕方のないことだ。お前は何も悪くない。」
……。
いつもなら、ここで頭を撫でてる。
擡げようとした手に慌てて力を入れて、気付かれないように衝動を抑える。
触れてはいけない…。
それから、さっきから気になっていたことが一つ 。
「なぁ 袮々切丸、……俺のこと…“主” とは、もう呼んでくれないのか…？」
．
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作者名：駿河 | 作成日時：2017年12月16日 14時
