六十話 ページ12
袮々切丸side
「……。…おいで、袮々切丸、」
溜息の後、優しくそう呼ばれた。
わけが分からないまま、彼のもとへ行く。
「っ…！？」
「少し、いじめ過ぎたな。」
近くまで寄ると、腕を引っ張られて抱き込まれた。
そのまま彼の胡座の上で向かい合う。
距離が、近い。
恐る恐る瀬登太刀の顔を見ると、
先程のような不機嫌な様子はまるで無く、
困ったように笑っていた。
「まさか泣くとは思ってなかった。悪かったな。ほら、もう泣くなって」
目尻を指で拭われて、
そこで漸く自分が泣いていたことに気付く。
「本当、お前は 可愛いなァ」
「俺に嫌われるのが、泣くほど嫌か？」
「っ…」
瞼にそっと口付けられた。
「なぁ、俺はきっと、どんな事があっても お前を嫌いにはなれない。今みたいに甘やかして赦してしまう。」
「瀬登太刀…？」
「お前がいない世界なんて、俺には考えられない。
お前を喪うのが、どうしようもなく怖いんだ。」
私を捕らえて離さない。
「だから、とにかく俺はお前にもっと頼って欲しかった。お前の至らなさとか、どうでも良いんだ。俺達を頼ることに、責任なんか感じるなよ。」
嗚呼、まただ。
また この刀は甘言を吐く。
そうして私の心を溶かし、
私を駄目にする。
前までは 何も考えず、それを鵜呑みにしていたのに、
何故だか今は、少し怖ろしい。
「瀬登太刀…、ありがとう。」
だけど私は、彼を拒むという選択肢を知らない。
私は彼にすり寄った。
彼の肩口に顔を埋め、背中に手を回す。
瀬登太刀は嬉しそうに溜息を吐いて、
私の髪を梳く。
そういえば、いつの日だったか。
あの本丸にいた時も、確か 誰かにそう言われた。
『もっと頼っていいんだよ』
……本当に、誰だったか…。
「なに、考え事か？」
「……。」
今の時点で彼に 私の意思を伝えても、
きっと否定されるだけだ。
「…何でもない。」
「俺に言えないこと？」
「……少し、時間が欲しいんだ」
「…そ。なら 気が済むまで悩めば良いさ。俺達は待ってるから。」
「…すまない」
そう言ってから、瀬登太刀に口吸いをした。
深く、深く。蕩けるような。
私の思いを、
唇から伝わるその熱で
溶かして送り込むように。
．
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作者名：駿河 | 作成日時：2017年12月16日 14時
