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…にしても、気まずい。
別れの挨拶をした途端、そそくさと帰って行った流星と神ちゃん。
残された俺と佐藤さん。
緊張する。
こんな夜やし、相手は酔ってるし。
酔ったらどうなるんやろ。
記憶無くなるとか、ほんまにあるんかな。
「ごめんね、帰ろ」
「いや、全然…てか、大丈夫っすか」
「んー…ちょっと飲みすぎたかも(笑)」
どう接していいか分からんけど、とりあえず顔は見たくて中腰になって接してみる。
伏せ目になってるのがこれまた良い。
ニヤけそうになるのを必死に抑えながら、
「歩けます?」と聞いた。
「無理、って行ったら…?」
俺の行動は間違いでは無かったらしい。
急に伏せていた目を俺に合わせて、
″ コテン ″ と効果音が付きそうな程あざとく首を傾げた。
「っはは…あかん、佐藤さん、ほんまにあかんっす。それは…」
小悪魔的可愛さ。
一周回って笑えてきた。
この可愛さ、犯罪やで。
「んふふ、冗談。帰ろ?」
「…うん」
いつもなら有り得ないけど、どちらともなく自然に手を繋いで道の端っこを歩く。
初めて小指以外に触れて、初めてアパートの敷地外を一緒に歩いて、この上ない幸せが今ここにある。
完全に佐藤さんのペース。
でも全く悪い気せえへん。
「寒いね」
佐藤さんがそう言えば俺のパーカーを肩に羽織らせる。
こんなベタな展開すらドキドキして堪らん。
「ありがと」
「いーえ」
他愛もない話をしながら、たまに立ち止まって、少し見つめあったり。
行くまでに20分歩いた道のりも、あっという間やった。
この辺りに来ると、いつもならコインランドリーの灯りが見えるはずやのに。
何故か今日は閉まっとって、真っ暗や。
「あれ。珍しいっすね、閉まってんの」
「ね」
「なんでやろ」
看板が見えたという事は、必然的にお別れになるという事。
″ もう少し一緒にいたい ″ なんて言ったら困らせてしまうやろか。
心做しか、どちらとも歩くペースは遅くなって、握る手の強さも増した気がする。
もう、よく分からん。
幸せすぎて感覚が麻痺してきたのかもしらん。
階段をゆっくり登り、ドアの前に差し掛かった瞬間
2人のスマホから同時にリマインドの音が聞こえた。
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作者名:ぴぇ | 作成日時:2022年7月6日 18時