死神さんと山猫さん【BANANA FISH】 (ページ16)

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移動してやってきたのは、図書館から少し歩いたカフェだった

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか？」

店内に入ってきたウエイトレスに指で3を示したセルゲイ・ヴァリシコフ
俺たちはその後についてボックス席に案内された

「なにか頼むかい？」

『いや…』

ブラックコーヒーを２つ頼んだ2人に俺は店内を見回した

『腹は空いてないんだ』

死神はモノを食べない

というよりも、食べるという動作をしない。何も食べなくても生きていける。死んだ人間が何かを食べるということなどできず、死神や悪魔、天使などこの世の理から外れている生き物は下界の食べ物は食べない

「お待たせしました」

ホットコーヒーを持ってきたウエイトレスは、俺の前には一応のために水も置いてくれた
だが、案内してきたウエイトレスと、運んできたウエイトレスとは別の人間だった

「グラン様、こちらを」

『！』

「ご所望のものでございます」

コトン、と置かれたのは小さなスマホ
どうやら、追加分らしい

『ご所望じゃねぇんだけどな…キャンセルは？』

「できかねますね」

死神歴、何千年といっていそうな立派なヒゲを蓄えたウエイトレスに言われては、俺も断ることはできない
了解しましたという意思のもと、差し出された書類に名前を書いて確認してもらう

「では、ごゆっくり」

紳士の如く歩いていく彼を見送り、セルゲイ・ヴァリシコフは「すごく素敵なウエイトレスだね」と背中を見ている

『ここには何年も働いてるらしいからな』

「知っているのかい？」

『俺の界隈ではな』

正確には、何百年とだろうけど

『それで？俺に会いたいってことは、何の用かな？』

「実はね、キミのことについていくつか書きたいことがあるんだ」

『…………』

にっこりと微笑み、隙を見せないその態度に俺は目線を少しだけずらした
アッシュ・リンクスは依然として俺をじっと見ている

『悪いが、俺は仲良くもない相手と話すつもりはない』

「そうは言わないでくれ。アッシュを助けてくれたそのお礼をしたいんだ」

『お礼が欲しくて助けたわけじゃない。アレは俺の利益のためにしただけだ』

誰も望んでない

見返りなんていらない

死神業ってのは、そんなんで成り立たない