グッバイ、クレメンス (ページ8)

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自身のカバンを持って席を立ったその時、「きゃー！」という自クラスの女子たちが騒ぎ始めた
なんだなんだとカルマと目を合わせてそちらを見ると、制服のブレザーをすでに着崩して、我がクラスをキョロキョロと見回している転校生がいた

「なんか探してるっぽいね」

『んなことより、早く帰ろう』

後ろのドアの方へと歩いていくと、「ねぇ」と呼び止められた
顔をそちらに向けると、前のドアの前にいたはずの彼が目の前に立っていた

「名前は？」

『え？』

「名前、お前の」

聞き慣れた、とても綺麗な声
その声に動揺して答えそうになった自分を殴りたい

「名前、教えてよ」

「って言ってるけど？」

『…………』

「聞こえてる？日本語のイントネーションは合ってると思うけど？」

「…？星華？」

声が、言葉が、喉に張り付いて出てこない

「…………星華、か…変わらないんだな、その名前」

「え、知り合い？」

『そんなわけ、ないでしょ』

「え、ちょ」

転校生の彼を押し退けて教室から出る
足早に靴箱へと向かい、自分の靴を出して上履きを入れてローファーに足を入れる

「転校生と知り合いだったんだ」

『そんなわけない』

靴箱に肩を預けて笑っているカルマにキッと睨みながら言うと、彼はニヤニヤしながら「嘘つき」と言う
何も面白くない。明日からどうすりゃいいって言うんだ

ー翌日ー

『……………………』

「うわあ、陰湿」

翌朝、登校して靴箱を開けてみればそこにはえげつないほどの罵倒の言葉を書いた紙の山が押し込められていた
他人事のように笑っているカルマになにを言っても無駄だとはわかるし、こんなことで私が怖がって泣くことはない

『こういうことされて、怖いとかそう思わない自分が怖い』

「星華の場合、俺のおかげで耐性ついちゃったもんね」

『おかげでいらないぐらいよ』

上履きだけ取り出し、バサっと落ちてきた紙の山をどうするかとカルマを見上げると、「ゴミ箱に捨てりゃいいじゃん」と備え付けのゴミ箱を指差して言う

その助言通りにしたら、次は放課後にえげつないほどの紙の山が靴箱に押し込められていたのだった