67話 食い違い ページ29
接見から戻ってきた大翔は、ただ無言で椅子へと向かっていく
その様子がどこかおかしいから『なんかあった?』と顔を覗き込むと、「まあ」と少し誤魔化すように言う
『なにがあったの?』
「…石川さん、サインさせられたんだって。なにもやってないのに、検事にも何度もそう言ったのに」
『………え』
ふと脳裏に浮かぶのは、大介おじさんのことだった
『大翔』
「大丈夫」
いつも通りの大翔に私は何もないことなんてないと思いながらも、事件に集中することにした
《こちらが、現場となった伊井山公園です》
会議テーブルに集合した私たちは、ニュース映像を見ていた
テレビの画面には「都内連続殺人事件 容疑を否認 被害者の女性 都知事候補の選挙スタッフ」と出ている
《都内で起きた連続殺人事件で、1件目の事件の被害者・中田麻里さんは、都知事に立候補した高山浩介さんの、選挙スタッフとして働いていました》
ニュースの画面には「中田麻里(30)」と写真が出ている
そして、先月20日収録の映像として、都知事選の街頭演説で選挙カーの上から聴衆に手を振る都知事立候補の高山さんと中田さんの姿が流れた
高山さんは黒のスーツの上から自らの名前を大書したタスキをかけており、中田さんは青い選挙ボランティア用のTシャツを着ている
画面はそこで現在も選挙活動中の高山さんに九十九さんがインタビューしている映像に切り替わった
《優秀なスタッフがこんな事件に巻き込まれて…非常に残念です》
高山さんは無念そうに目を伏せた
次に画面は「2件目の被害者 岡由美子さん(28)」と書かれた顔写真に切り替わった
《一方、2件目の時間の被害者・岡由美子さんは、5年前に胃がんが見つかり、つい先月完治の宣言をされたばかりでした》
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ホワイトボードにはいつものように事件の概要が書かれ、部屋の中には証拠書類の箱がいくつも置いてある
「都内で起きた連続殺人事件です。まずは1件目、5月20日、目黒区内で起きました
被害者の中田麻里さんが帰宅途中、伊井山公園に連れ込まれ、殺害されています。
えー、犯行時刻は同日の23時から24時の間です」
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作者名:サッカーバカ | 作成日時:2022年12月27日 10時