65-5 ページ21
「井荻はアムロやマチルダさんが誕生した街なんです」
「上井草だろ、それ」
「当時は井荻だったんです!」
「うるせえな、おい」
どうでもいい言い合いをしている2人を微笑ましく見ながら、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出してカウンターの空いている席についた
「殴ったね?親父にもぶたれたこと…」
明石さんのことを殴った健太兄ちゃんは、「機動戦士ガンダム」のアムロ・レイのセリフを言おうとしたが、容赦なくもう一度殴った
「言わせろや、最後まで、髭!」
キャップをパキッと開けてそのまま口をつけ流し込む
「「悲劇のヒロイン」って…皐月さんも大変な思いしてたんでしょうねえ」
藤野さんがそう呟く
読んでいる週刊誌には、「山城鉄道グループ社長逮捕 犯人に仕立て上げられた悲劇のヒロイン」というタイトルの記事が見開きで載っていて、功一さんの写真入りの記事が大きく取り上げられていた
皐月さんは容疑者だった時は、テレビのニュースでも新聞報道でも顔写真が公開されていたが、無実が証明されたので、週刊誌では黒目線で隠されている
「ねえ、ほんとですよ」
「大変な思い……」
『?』
カウンターの中でタコを切っていた大翔の手が止まる
何か思いついたのか?と顔を顰めていると「ごめん!試合長引いた」も、立花さんが入ってきた
「おお、彩乃ちゃん。ホール帰り?プロレスラーの方、きてるよ」
「ええーっ!すごいね、すごいね」
後ろでプロレスラーと記念写真を撮り始める立花さんをちらりと見てから大翔を見ると、考え事をしながらブツブツと呟き、フライパンでタコやズッキーになどの具材を炒めていた
「犯人の身代わりになった、悲劇のヒロイン、自ら罪をかぶった……」
「ヒロくん、たまには私が作ろっか?」
カウンター席から、加奈子ちゃんが声をかける
今日はカウンターに「甘煮添え/かなこの糠床節」というCDが置いてある
「加奈子、お前何作れんの?」
「目玉……焼き」
「お前、それ料理って言えるのかよ。彩乃ちゃんは料理できるの?」
「できますよ」
「え、得意料理なに?」
「卵焼き」
「それ料理とは言わねーだろ…」
会話を黙って聞いていたシンが呆れながらツッコミを入れた
58人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:サッカーバカ | 作成日時:2022年12月27日 10時