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『あ？フェリーだぁ？』
「あぁ。今から、行かないか？」
『お前らだけで行ってこい。俺は今缶詰なんだよ』
追い払うように手でシッシッとする
パンを咥えてユラユラと動かしながらブルーライトカットのメガネの奥にあるパソコンの画面をガン見する
そんな俺の態度が気に食わなかったのか、アッシュはムスとした顔で俺のメガネを取った
『あ』
「行こうよ、オニイチャン」
『お前の口からオニイチャンとか…』
「なんだよっ！俺が誘ってんの！デート!!」
『はいはい、フェリーなんて逃げ場のない場所に行くつもりはねぇよ。奥村くん待たせてるんだろ、車出していいから、行ってこい』
「っ〜…あぁ、行くよ！」
ガラッと襖を開けて振り返り、べーっ！と子どものように拗ねて舌を出すアッシュにやれやれと頭を抱えて呆れて笑う
『行ってやりてェのはやまやまだけど、無理なんだよな…』
船だけは…
直斗side
「あいつがフェリーに乗りたがらない理由？」
「誘っても行ってこいの一言！なんかあるんだろ？」
「って言われてもな〜」
運転席で車を走らせる俺に、ルームミラー越しで聞いてくるアッシュに俺は前を見ながら後ろをチラリと見る
むっすりと助手席側の後ろに座るアッシュと、運転席側の後ろに座って苦笑いしている奥村くんを一瞥し、俺は再び視線を前に向けた
「これ、言ったら俺が怒られるんだけど秘密にしてろよ？」
「え？」
「今から…いつだっけ…そうだな…10年くらい前か？あいつ、1回船から落とされたんだよ」
「は？」
「結構デカめの…豪華客船っていうの？アレに乗っててさ
襲撃にあって、逃げてたら犯人一味に足掴まれて放り投げられて海にドボン」
「…………」
「救命胴衣も着衣してなくて、服は水を吸って重くなるし身動き取れなくなるし、しかも海流が早くて冷たい海水だったのもあって、見つかった時は低体温症で死にかけてたんだよ
ほかにも、船でいい思い出なんかねぇし、あいつにとって船ってだけで逃げ場のない場所なんだよ
実際、本当に逃げる場所なんてないしな」
見つかった時、真っ青でガタガタ震えていたあの姿は今でも覚えてる
目の前で小さな命が消えそうになったあの感覚だけは、とてもではないが二度と経験も体験もしたくない
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作者名：サッカーバカ
| 作成日時：2022年7月10日 18時
