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「中東の、ある過激派組織が犯行声明を出しましたが、あまりに不自然でした」
「あなたは、当局が関わってると思ったんだね」
「さあ…真実は今もわかりません
月龍様、奥村英二と白樺瑞姫をいえ、白樺瑞姫をアッシュから奪うことは、もう1人、私たちを作ってしまうということなのですよ
愛さず、愛されもせず…憎悪と虚無だけが生きる糧の、憐れな生を
そして、白樺瑞姫からアッシュを奪うことも許されない」
「…え?」
「彼女は父親を事故で亡くし、母親は自分を産んだ後に亡くなりました
歳の離れた兄は今は日本で働いていますが、それも彼女が成長するにつれて会うことは少なくなっています
彼女を育てたのは祖父母ですが、その祖父母もあと数年でしょう…」
「……………」
「彼女は母親からの愛を、父親からの愛を、受けることなく祖父母からの愛を一心に受けて育ちました
彼女があなたを嫌う理由は、きっと自分の今置かれている立場から争うことをしないことでしょう…
それだけの力を持っているにもかかわらず、その場に収まるあなたが嫌いなのでしょう…」
月龍は、瑞姫のこれまでのことを思い出した
逆らえばいいと言っていた、それができれば自分は苦労しないなどと思っていた
だが、確かにそうだった
「彼女はアッシュを愛した…それは、争い続けて立ち上がるその姿が彼女にとってそれが鮮明であり、憧れであり、そんなあいつの力になりたい…そう思ったんですよ」
「…………」
「アッシュは…あいつは、憎んで覇者となるよりも彼女を愛して滅びる道を選んだんです
愛さなければ愛してもらうこともまた、できません
アッシュは、あいつは少なくとも愛することを知っています」
アッシュが瑞姫を想うことと、瑞姫がアッシュを想うこと
どちらも意味は違えど2人はお互いを愛している
想いを伝えるのが恥ずかしい瑞姫のその気持ちを汲み取るアッシュは、少しずつ自分の気持ちを伝えていこうとするその姿勢に、ブランカは嬉しかったのだ
「…行けよ。行っちまえ!アッシュのところへ!」
「…あなたを気にかけ、愛してくれる者が彼女以外にきっといます」
「いるか!そんなの!彼女以外、僕はいらない!」
「あなたが気づかないだけですよ。さようなら、ご自身を大切に」
瑞姫だけが欲しい、だがそれは叶わない
月龍はそれがどうしようもなく辛かった
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作者名:サッカーバカ | 作成日時:2021年8月27日 15時