大王女様と山猫小僧8 (ページ46)

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NOside

「失礼します」

扉を叩いてブランカは月龍の部屋に入った

「やあ、おかえり」

月龍はふわふわした声でガラスの中の液体を飲み干すと、悪態をついた

「あいつ死ななかったんだって？ふん、全く悪運の強いやつだ」

「…あいつ、とは…どちらの？」

「奥村英二さ…」

「………月龍様、アッシュを庇ったのは白樺瑞姫です」

「…！そうか…やっぱりね…やっぱり、彼女は僕のそばにはいてくれない」

月龍はどこか納得したように目を伏せると、「欲しいものほど、手に入らないんだね」と言った

英二と瑞姫を殺すように差し向けたのは月龍だった

どちらかが死ねばアッシュは絶望する
どちらかが傷つけばアッシュは鬼になる

それを望んでいた

だが、できれば奥村英二になることを望んでいた月龍は、瑞姫が大怪我をしたことに少し驚いたものの、どこか分かっていた気がしたのだ

瑞姫が、自分の命と引き換えにアッシュを守ることを

「ねえ、ミスター。僕には憎む権利があるでしょう？」

自分の過去を話した月龍は、ブランカに近づいて微笑んだ

「アッシュはどうだったの？なぶられて、踏みつけにされて、彼は憎まなかったの？呪わなかったの？
僕には見える…彼の怒りが。あの冷たい美しい顔の下に魔が棲むことを…僕は知ってる
ずるいよ…1人で救われようなんてさぁ
そんなもんで埋められるわけないってこと、自分が一番知ってるくせに…彼女のそばにいることで救われようなんてさ…ずるい、ずるいよ…！
僕だって彼女が欲しいのに…！」

子どものわがままのような月龍は、初めて会った時から瑞姫が気になっていた
どことなくバカっぽく、だけどそれでいて意思が、志が強い瑞姫に月龍は徐々に自分もこんな風になれたらと思っていた

そして、彼女が自分ではなくアッシュに心が傾いていることに気づき始めた時、彼は羨ましいと思った
アッシュと同じくらい美しい容姿を持った自分でも、アッシュには敵わないこと

そして、なによりも

あんなに強くて健気にアッシュを想う瑞姫を突き放そうとするアッシュが憎くて仕方なかったのだ

だから、彼の宝物である瑞姫を傷つけようと自分の屋敷に2度監禁した
1度目は脱出されてしまったものの、2度目は部屋に何度も赴いて自分を知ってもらおうと話しかけたが、瑞姫は自分に対して何も聞かなかった