大王女様と山猫小僧5 (ページ29)

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『………』

「手当て」

『………』

「何もしない」

じっと見ながらアッシュに近寄ると「何もしないから」と言う
スルリとシーツを取るとアッシュは傷を見て少し辛そうにしていた

だから嫌だったんだ

『…背中の、してくれる？』

「ん」

ベッドに腰掛けて背中を見せると、アッシュが「消毒するぞ」と言って綿をぽんぽんと背中に当ててくれる
ピリピリと痛むけどそれを我慢しながら待っていると、細い指が傷口に当たった

『アッシュ？』

「…ごめん、守れなくて…傷までつけた」

『………』

「見えるところに、たくさんつけた」

『…これは、アッシュがつけた傷じゃない。私が、ショーターを守れなかった傷だよ』

胸元にできた傷を撫でると、後ろからギュッと抱きしめられた

「これからは、俺が守る…だから、俺のそばから離れるな」

直で感じるアッシュの体温にドキドキしていると、ゆっくりとアッシュが離れた
傷の手当てを再開したのか、また綿がぽんぽんと当たっている

シーツで前を隠しながら手当てが終わるのを待っていると、「はい、終わり」と言われた
やっと終わったと立ち上がると、「おい」と手首を掴まれた

「前はまだやってないだろ」

『…………ん？』

「前だよ。ま・え」

『…………』

「切られてるだろ」

シーツを引っ剥がされて『ぎゃー！』という色気のない叫びを上げながらアッシュからドタバタと逃げる

『待って！待ってってば!! 自分でやるから！』

「俺がやる！お前絶対雑にするだろ！」

『そんなことない！』

部屋の中をアッシュと駆け回りながらドタバタと暴れると、「ほら！」とベッドの上に投げ出された
起きあがろうとすると、アッシュが覆い被さってきて「俺がやるからじっとしろ」と言われた

申し訳ない程度で縮こまると「襲わないって言ってるだろ」と言いながらアッシュは私を抱き起すと「そんなに信用ないか？」とむすりとしていた

『襲わないって言ってる人間ほど襲うのを知ってる』

「誰かに襲われた事例でもあるのか？」

顔を合わせずにいると、「ほら、腕どけろよ」と言われる
腕をどかそうとするアッシュと断固として聞かない私の戦いが始まる

「ちょっ…なんでそんなに守るんだよ…！」

『なんか怖いもん』