40話 怖いものの時間 ページ16
テーブルに並べられたのは、巻き寿司と豆腐のケータリング
『うわあ、ほんとに日本の豆腐だ』
「あいつら、気を利かしたつもりなんだ」
パキッと箸を割ると、アッシュは器用に巻き寿司をつまむと口の中に放り込んだ
日本人よりもうまいかも知れないその仕草に「お箸の使い方がうまいね。日本で暮らせるよ」とオックンが言った
「…日本か。英二、家族は？」
「両親と妹が一人」
「妹？きっと可愛い子なんだろうな」
「ぜーんぜん！可愛くないよ」
(いや、絶対可愛いでしょ…オックン童顔だし)
はむりと巻き寿司を口の中に放り込み、もぐもぐと食べながら豆腐も口にする
うん、日本の豆腐だよ
「…こんなことを話すのは初めてだな。もうずいぶん長く一緒にいるのに」
「そうだね…」
「俺はお前たちのことを…ほんとに、何も知らないんだな」
『？』
口に放り込んだ巻き寿司と噛む前にアッシュを見ながら、目をパチパチと瞬かせた
「お前たちの髪は真っ黒と茶髪だ。目の色も深い闇の色と茶色だ」
「そういえば、白樺さんは黒髪じゃないんだね」
『んー…色素が薄いだけかな〜。天然だって言ってんのに、いっつも生活指導の先生に怒られてたんだよね。天然地毛の茶髪だっつってんのにさ!!
目の色だって、茶色の人いるのにカラコンだろ！みたいな…あたり強かったなぁ…』
「そ、そうなんだ…」
『でも、黒髪とか私苦手かな』
「え、どうして？」
『腹立つ後輩を思い出す(ﾊﾞｷｯ』
持っていた割り箸を力任せに折ると粉々とまではいかないものの、折れてしまった
「…子どもの頃は黒いものが怖かった…
ハロウィンの夜、親父がカボチャでジャック・オー・ランタンを作ってくれたんだ
そいつを被って近所を回って歩いたのさ。兄さんを驚かせてやろうと、一人で森の中に隠れたんだが…辺りは真っ暗で、森の中から奇妙な鳴き声が聞こえる
心細くなって帰ろうとすると、森の中からでっかいカボチャがゆらゆらと」
飲み物を手でブラブラとさせているアッシュにポロッと箸を落としてしまった
「後でわかったんだけど、あれは車のフロントガラスに移った自分の姿だったんだ
あれ以来、カボチャは大っ嫌いさ。見るだけで寒気がしてくる」
私とオックンがポカンと口を開けてアッシュを見ていると、「なんだよ？」とこちらを見ているアッシュに耐えきれずに笑い始めた
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作者名：サッカーバカ
| 作成日時：2021年8月22日 11時
