強者の首を狩れ【BANANA FISH】 (ページ49)

今日:32 hit、昨日:20 hit、合計:15,831 hit

8-8 ページ49

アッシュの保釈許可が降りて2日後、今日アッシュは刑務所から出てくることができるのである
適当なTシャツとジーパン、パーカーに身を包み面接室でスマホをいじりながら適当に待っていると、「アッシュ！」と英二がソファから立ち上がって駆け寄っている

一瞥したのち、トーク画面を開き既読をつけ『すぐ折り返す』という連絡を入れる

「よかったね、おめでとう！」

「世話になったな、英二。お前も…海斗」

『なーんもしてないけどな』

ソファに座ったまま答え、足を組んで手を振るとアッシュは柔らかい視線を向けてくる
くあっと大きなあくびをしたあと、立ち上がり怪我をしていない肩の方をあげて頭をガシガシとかいた

「お前には、これからたっぷりと聞きたいことがあるからな」

チャーリーのそんな言葉に、うんざりとして肩をすくめたアッシュに全員が苦笑いを浮かべるほかなかった
ポケットの中にあるスマホがバイブする。嫌な報告を受信した

駐車場に向かう際、みんなのやや2、3歩後ろを歩きスマホの画面を見ると、本当にうんざりとしたくなる内容だった
鷹岡がアメリカに入国したらしい。アメリカ大使館との連携ですぐに捜索が始まっているらしいが、すぐには見つかることはないだろう

あいつは腐っても元防衛相の人間だ。そこらへんのことは大変よく知っているだろう

スマホの画面を見ながらスイスイと親指を動かしていると、「姉さん、早く〜」と英二が車に乗り込もうとしているところだった

『あぁ、すぐ行く』

そう答えて、送ってきてくれたクラス委員長に『ありがとう、気をつける』という文字だけを打ち込み、トーク画面を閉じた

ツキッと小さな痛みが肩を襲った
無意識にポンッと手を当ててしまった。なんとも面白く酷く悲しい

痛みには強いと言ってもいいが、こういった痛みは耐えることも難しい
撃たれてからまだ数日としか経っていない。安静にしてろと言われたら、さらに無茶をしたくなるのが人間のサガだろうか…

「姉さん、早く！」

『わかってるから』

スマホをパーカーのポケットの中に突っ込み、反対側のタバコをグシャリと握った

空には崩壊した月が見える

あぁ、さみしい

あの時の時間が、人々の脳内から消えていく

『さみしいことで…』

誰かにいつか忘れられた時、その時が先生の死だろう
そんなことにならぬよう、心に刻み込み英二の待つチャーリーの車に向かった