十五話 ページ17
1セット目は中盤に差し掛かる。
19対18 シーソーゲームが続く。
サーブは期待の日向のサーブ。リベロがセッターである影山の頭上へ返した。トスはライトの牛島にあげられ、彼のパワーはブロックをはじき飛ばした。
しかし宮がフォローし、二段トスを上げる場面。攻撃は単調になる、とAは考えたが。
『けっ、上手いじゃん』
日向がセットアップのモーションに入る。ブロックは一歩出遅れた。オポジットである日向のトスはセッターの宮にあげられ、見事にコートに叩きつけた。
これには興奮を抑えきれず、日向や宮を知る者は声を漏らした。
『彼はブラジルでなにをおそわったんでしょうね。いつのまにかただ上手いプレーヤーになっちゃって』
Aは呂律のまわらない口で言った。
いつの間にか知らない人間になっていた。日向くんは、いつどこで前の日向くんを殺したんのだろう。
この人たちは、一度過去に自分を殺している人間なんだと思う。自分で自分を殺し、新しい自分を生きる。きっと何度も何度も殺して別人になった人もいる。
私がかつて中学時代、自分を切り離したように。
その覚悟のある人間が、ここに立てるのだろう。
自分を"ただのエース"と呼ぶ彼も、その一人だった。
ちなみに私はあの日から、自分を殺せないままだ。
______
『……どっちも準優勝とか、ダッサ』
自嘲するような笑みを浮かべ、Aは言った。その目はとめどなく流れる涙で溢れていた。
ネットの向こう側ではチーム全員で抱き合って泣いていた。表情は明るくて、Aは恨めしそうにそちら側を見た。
コートの外では先程決勝戦で敗退した梟谷高校の男子チームが複雑な表情でこちらを見つめていた。木葉に至っては同じように涙が零れていて、歯を食いしばって止めようとしているのだろうが、ぽろぽろと涙が零れて続けていた。
整列して、握手をして、好評をもらって。
Aは、膝をついた。頭を床に擦り付けて、土下座をした。涙ぐんだ声で、言った。
『今まで、ありがとう、ございました。恩を返せなくて、ごめんなさい』
それまで涙を堪えていた大塚はその姿を見て糸が切れたように大泣きした。Aの腕を掴み無理やり立たせ、思いっきり抱きしめた。苦しくて、苦しくて、悔しかった。
「返してもらうためにアンタの面倒見たわけじゃないのよ。だから謝らないで!」
「そうだよ。恩があるなら来年にでも返してよ。待っててあげるからさ」
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きゃーぽん(プロフ) - 面白くて一気に見てしまいました!更新頑張ってほしいです応援しています^_^ (2022年1月8日 6時) (レス) @page21 id: 0aee990b2e (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - 1話1話の内容が読み応え(濃くて)があって、読んでいると時間を忘れる作品でした!、、、更新はもうなされないんですか? (2021年9月18日 10時) (レス) id: 1a6dd63888 (このIDを非表示/違反報告)
まりも(プロフ) - はとむぎ。さん» レス遅くなくってごめんなさい! とっても嬉しいです! 大人編は中々ごちゃごちゃさせてしまったので難しいんですよね笑 頑張って更新します! (2021年7月11日 8時) (レス) id: 0de810db1e (このIDを非表示/違反報告)
はとむぎ。(プロフ) - ぁぁぁぁぁぁ!!面白いです!!前に1度この作品を拝見させていただいたんですけど、ふと思い出してもう1度読みに来ましたぁ!堤ちゃんをみてると今の時間楽しまなきゃなと思いました。文才がぶっ飛んでいてすごいです!!更新待ってます!無理のない範囲で頑張って! (2021年5月5日 11時) (レス) id: f737b4b4c2 (このIDを非表示/違反報告)
まりも(プロフ) - りんさん» やっと落ち着いて書いちゃいました〜。確かに心の支えはその二人ですかね! まぁ彼女は色んな人に支えられて生きてるんでしょうけども。これからも頑張ります! 励みになるコメントありがとうございました! (2021年1月31日 11時) (レス) id: 0de810db1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まりも | 作成日時:2020年5月14日 3時