“元”杉沢第三高校一年担任教諭は災厄を食い止めたい。（5）【呪術廻戦】

138.訪問 ページ10

壁掛け時計の短針が9、長針が12を少し過ぎた頃。

虎杖悠仁と吉野順平はソファに並んで座り、クライマックスを迎えたホラー映画を食い入るように見ていた。

少年達が殺人ピエロとの激闘を終え、ガラスで切り裂いた手を取り合い誓いを立てる。

無言で瞬きを忘れテレビ画面にのめり込んでいる最中で、場違いなインターホンの音が2人の耳に新鮮なものとして入り込んだ。


「あれ、こんな時間に誰かな？」


ハッとした吉野は立ち上がり、玄関へと続くドアに目をやった。


「たぶんA先生が迎えに来てくれたんだと思う。俺の高校の先生でさ」

「先生が迎えに？」


軽く説明を受けながら吉野はモニター画面でインターホンの向こう側を確認すると、鍵を開けてその人物を迎え入れた。


『こんばんは。夜分遅くにすみません』




開かれたドアから土間に進み吉野くんに軽く会釈すると、開いていたドアからリビングと台所の様子が少し見えた。

テーブルに突っ伏して熟睡している女性の近くには、ビールの空き缶が数本置かれている。

プロフィール欄にもあった。この人は吉野くんの母に当たる吉野凪さんだろう。盛り上がっていたのは2人だけじゃなかったらしい。

しかし、椅子で寝落ちして起きたら目の前に食べ終わったままの食卓が広がっているというのも悲しい事だ。経験が物を言う。


『あの、少しシンクをお借りしてもよろしいですか？ 食べた後の片付けをしておきます』


こびりついたら落とすのが大変だし、虎杖くんと帰った後に吉野くんや吉野くんのお母様にやらせるのも申し訳ない。

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