“元”杉沢第三高校一年担任教諭は災厄を食い止めたい。（5）【呪術廻戦】

137.2時間 ページ9

怪我人を長い間放置してはおけない為、虎杖くんとの合流は後回しにして、伊地知さんは位置情報を頼りに迎車を走らせた。


「……………」

(呼吸がしんどい……)


傷の痛みと想定外の展開の多さに、乗車した七海さんの眉間には殊更に皺が寄っている。

伊地知さんには背後から、私には一席置いた隣から無言で発せられる不機嫌オーラに冷や汗をかかされた。


緊迫した車内の空気を何とかやり過ごし、七海さんを家入さんのいる高専の医務室まで送り届ける。

私は校門のあたりで虎杖くんに再度電話をかけた。


〈もしもし、A先生？〉

『もしもし虎杖くん、夕食は終わりましたか？』

〈おん、さっき終わったとこ。めっちゃ美味かった！〉

『それは何より。……ええ、七海さんから例の呪霊について重要な報告を承ったので、他人の耳が届かない所まで移動して下さい』



私は一言一句言い漏らさないように、七海さんの伝えた通りに詳細を説明する。

虎杖くんは真剣そうに耳を傾けていた。




『──────報告は以上です。では、そちらに迎えに行きますね』

〈あっ、ちょ待って、後もう2時間待って！今から順平と映画だから、んじゃ！〉

『……………』


それ以上言葉が残される事は無く電話が食い気味に切られ、私の耳に入るのは「ツー、ツー」と規則的な不通音のみとなった。

無言を肯定と受け取ったのか逃げたのか定かでは無いが、向こうは相当盛り上がっているようだ。


……そんな時くらい無粋な横槍は入れないでおくか、と思い携帯の受話器ボタンを押して画面を閉じる。

あまり夜遊びが長引くのは頷けないけど、生徒数の少ない高専に通う中で同年代の新しい友達が出来たのは喜ばしい事だしね。


今からあと2時間ってことは、夜9時か。

ここから吉野くんの家までは、だいたい車で片道1時間くらい。

お生憎様、それくらいの時間を持て余すほど私とて暇じゃない。


私は伊地知さんと七海さんに午後9時以降から車を出すと伝え、自室に戻り今日分の報告書の作成に取り掛かった。

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