“元”杉沢第三高校一年担任教諭は泰然自若でありたい。（3）【呪術廻戦】

97.アキレスと亀 ページ34

『五条先生、これは一体……？』


歩き出した五条先生のさぞお高そうな服の裾を掴ませてもらう。皺になるかもしれないが命には代えられない。


「アキレスと亀、知ってるでしょ？」

『エレア派のゼノンに関する運動論のパラドックスですね。俊足のアキレスでも鈍足の亀に追いつく事が出来ない、何故ならその地点へ辿り着く迄の間に亀はほんの少し前進しているから……でしたっけ』

「んーー…？普通に抜かすで良いんじゃねーの？」

『虎杖くん、ちなみに後々これを倫理の授業で習う事になります』

「げ、マジか……」


生徒の反応にも思うけど、倫理学の説明は毎度まどろっこしい。でも、それがどう術式と繋がるんだろうか。


「僕の術式で発生する“無限”の一つはそれに似た性質を持つ。僕に近づけば近づく程、物は減速して到達できない」


分かりやすく説明してくれているが、掘り下げればもっと複雑で難解だというのは言わずもがな。


「此処は無下限の内側。“知覚”、“伝達”……、生きるという行為に無限回の「作業」を強制する」

「皮肉だよね。全てを与えられると何も出来ず、緩やかに死ぬなんて」


五条先生は呪霊の頭部にある火口を鷲掴む。

手が焼け爛れないのは間に無限を挟んでいるからだろう。やっと目に見えない防御壁の謎が解けた。

単純な物理攻撃じゃない、額面通り発動すれば勝敗が決まる術式と領域。


「でも君には聞きたい事があるから、これ位で勘弁してあげる」


指先に力が込められて、ミチミチと首の肉が重く裂ける音を立てた。

やがて血飛沫を撒き散らして呪霊の首がもぎ取られ、双方の領域が解除される。


「さて……誰に言われて此処に来た？」


五条先生は投げ捨てた呪霊の生首を踏み付け、目隠しを戻し尋問を始めた。


(………これが、呪術師最強)


(生き物としての格が違う……！！)

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