第百二十九話:泣き声 ページ37
閑静な村に、一人の子供の悲痛な叫びが聞こえた。
長年耐えてきた苦しみから解放される瞬間に、地獄に落とされた少女が泣いている。
ナイフで何度も自らの腕を突き刺すその姿は痛々しく、勇ましく、健気であった。
苦しかっただろうに。村を助ける為に嫌いな海賊の仲間になって。
「アーロン、アーロン アーロン、アーロンッ」
怖かっただろう。幼い彼女にとって何回りも大きい魚人は。
「......ルフィ」
憎かっただろう。母親を目の前で殺された相手に扱き使わされることは。
「あんたには関係ないから島から出てけって言ったでしょ」
「ああ、言われた」
「あんたも！なんでまだここにいんのよッ」
「あら、どこにいようが私たちの勝手ではなくて？」
感情を表現することなんて出来ない。なにせAには親の記憶もなければ大切な人がいた記憶すらないのだから。彼女の気持ちを汲み取ることなんて出来ない。
それでも、彼女が強くて優しい女の子だと言うことは分かる。
「ルフィ......
助けて」
だからこうして助けを求めることが今までできなかった。
ルフィが帽子をナミに被せる。普段は触らせないその帽子を被せる理由など明確だ。
「当たり前だ！」
空に向かって叫ぶルフィにAは笑みを浮かべた。こういう人間なのだということをAは傍で見てきた。何年も前から変わらぬ男の本質が、今はとても好ましい。
「あ、ああ」
「ナミ嬢。ほら、泣いてちゃ前が見えないわよ」
溢れる涙をハンカチで拭う。それでも泣き止むことはなく、Aは小さな体で震えるナミを抱きしめた。
「大丈夫、助けて欲しい時ルフィは必ず答えてくれるわ」
「ひっ、うう......う」
「よしよし。いっぱい泣きましょうね」
力強く、これ以上彼女が傷つくのを防ぐように。Aは四人の男の後ろ姿を眺めた。彼らなら大丈夫だ。
抱き締め返してくれるナミの背中を撫でながら心中願う。どうか、この村に平和が訪れるようにと。
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作者名：U・K | 作成日時：2023年9月12日 2時
