青葉繁れる <ybhk>

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「こっち、こっち、光くん！」

順番待ちのギリギリで八乙女が
ベースを抱えて走ってきた




オーディションは3日後、
前夜祭の昼間のプログラムだ。
審査は実行委員会と
お客として任意参加してくれた
生徒たちの投票で決まる、
俺らは中島のオリジナルを
2曲演奏するんだけど、
こっちの進行具合は
あまりうまくいってない。





問題は高木のギターだ
中島の求める水準まで
届かないんだよな、
いや、初めてのわりには
かなりいい線いってるんだけど、
ボーカルと同時進行ができないんだ





「あー、片方だけならうまくいくんだけど」


「もう、間に合わないなぁ
明日の夜、時間取れる？
スタジオ借りて仕上げようぜ」


「そうだな、俺は大丈夫。
八乙女は？店を手伝ってるだろ？」


「閉店してからならいけるよ」


「え…明日？」
高木の目がちょっと泳いだ。



「無理？」


「うーん、いや、大丈夫、行く…よ」


「バナナマフインちゃんに
いいとこ見せなきゃな」


「バナナ？ああ、
あの子はもう関係なくなった」


「また別れたのかよ⁉」


「えーっ、あの子、友達多いから
票を見込めると思ってたんだけどなあ」



そこでチャイムが鳴った。

わあわあと中島が
高木を追及してるのを
ほったらかして、俺は
こっそり八乙女の肩をつついた。





「な、今日はちょっと遅くなるんだ。
寒いから教室で待っててよ」


「いや、いつものとこでいいよ」


「寒くない？」


「……んー、ダ、イ、ジョブ、だよ」



ゆっくり考えながら喋る八乙女の言葉が
カタカナに聞こえておかしくて笑ってたら
いつの間にか中島が後ろにいて
ニヤニヤして俺をみてた。



「なになに〜、
なんかこっそり通じ合っちゃってぇ」




あ、ちぇっ、聞いてたのか
ふたりで帰ってること
内緒にしてたのに…

これは俺だけの特権なんだよ
だって、八乙女、最近さあ
あちこちにひっぱりだこで、
何してるときも誰かが一緒にいるんだもん
ふたりでゆっくり話せるのって
帰りくらいなんだよ
悪いかよぉ





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