. ページ27
.
……
小さな頃からサッカーが好きで
高校も、もちろんサッカー部に所属した。
ずっと、俺の生活の中心と言えば
サッカーだったから、
高校でも、部活動の妨げにならないようにと
一番楽だという図書委員会に所属したのだが
意外なもので、そこで俺は
二つの「初めて」に出会った。
ひとつは、書物との出会いだ。
利用者の少ない図書館での役割は
確かに暇で、時間を持て余した俺は
自然に読書になじんだ。
手当たり次第に、多くの書物を読み漁ったが
特に現代詩には強く心を揺さぶられた。
短い表現の中に広大な宇宙を感じる、
難解で奇怪な文章の中に
鋭く自分を切り裂く一節がある、
また、その奥には、何かしら
エロティシズムや人間の泥臭さが
隠れていた。
「言葉」の持つ世界に魅せられた俺は、
さらにその世界を深く知るために、
東京の大学への進学を決めたのだ。
そして、もうひとつの出会い…
それが、光だった。
初めてのキス、初めての夜、
初めて自分以外の誰かの気持ちを思い
時計通りには進まない
ふたりだけの時間があることを知った
光と最後に会ったのは、
進学のために故郷を去る俺を
見送りに来てくれた
雨にけぶるプラットフォームだ。
俺は軽く光の手を握って
列車の窓から手を振った
それは、なんだかありきたりな
儀式だったような気がする
光の表情からは何も読み取れず
俺も何も言わなかった。
ただ、雨音に紛れて鳴った細い汽笛が
次のスタートを告げるホイッスルの音
のように聞こえた事を覚えている。
そうして始まった大学での生活に
俺はあっと言う間に夢中になった
あれもみたい、これも知りたい、
多くの友人や師との出会い、
刺激的なディスカッション、
課題をいつも山ほど抱えて、
下宿で落ち着いて布団を敷いて
眠るような時間はなく、
いつも明りをつけっぱなしで
気が付いたら朝方を迎えるような
そんな毎日を過ごした。
青葉繁れる故郷は遠くけぶる雨の向こうに
霧のように霞んでいき、
俺は今の今まで、
光の事を思い出すことはなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 233人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Ｑ(プロフ) - ひまわりさん» ひまわりさま お越しいただきありがとうございます！また、嬉しいお言葉を頂きまして恐縮です〜、ホントにラブラブ度がマシマシのお二人に私もニヤニヤが止まらず…ほんとにあの二人は愛の沼ですよねえ(*´ω｀*) (2020年2月28日 8時) (
レス) id: 606e7e57bd (このIDを非表示/違反報告)
ひまわり - 最高です！言葉が綺麗で、やぶひかの愛のお話に、ニヤニヤが止まりません！ (2020年2月26日 13時) (レス) id: c555f4efe2 (このIDを非表示/違反報告)
Ｑ(プロフ) - ちちちさん» ちちち様。涙がこぼれるなんて勿体ないお言葉、ありがとうございます！こんなまんまで、しみじみと10年位たってしまって、告白もしてないのに当たり前に同じ墓にはいるつもりでいるような2人が私も大好きです。長編も頑張ります！ (2019年5月11日 1時) (レス) id: 606e7e57bd (このIDを非表示/違反報告)
Ｑ(プロフ) - みるみるみるきーさん» みるさま。えー、なんかー、すごくすきぃーーになって頂いて嬉しいQです。でもでも、ずっとこのままなら、いい関係だけど‥‥清いままなんですよおおーーー。ぶうぶう。ま、そのうち薮さまがしれっと手を出してくると思われますー、ふっふっふ (2019年5月11日 1時) (レス) id: 606e7e57bd (このIDを非表示/違反報告)
Ｑ(プロフ) - しろくまさん» しろくまさま。最近のやぶひかの尊さにはもう心臓が持ちません。ひかにゃんって、繊細で、メンバーの事を本当によく見てるなって思う事があって、その優しさが薮さんにあからさまに向かっている所が好きです。長編、頑張ります！ (2019年5月11日 1時) (レス) id: 606e7e57bd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
