近づく夕凪 ページ22
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夜のオクタヴィネルは、とても静かだ。
海の中に位置しているので外の音は遮断されており、聞こえてくるのは気持ちのいい泡の音。
しかし、今日は違った。
「っざけんなよ、まじで」
「フロイド、椅子を蹴らないでください。壊れます」
フロイドは部屋の椅子を長い足で思い切り蹴り飛ばし、「うっせえなぁ!」と苛立ちを隠さない。
その部屋は酷い有様だった。
怒りをそのまま描いたかのように机と椅子は部屋に散乱しており、ベッドもぐちゃぐちゃ。
「フロイド」
「あぁ!?」
「落ち着いてください。イライラしているのは僕も同じ・・・いえ、それ以上かもしれません。しかし取り乱してはいけませんよ。落ち着いて、冷静になって」
壁に寄りかかっていたジェイドは、「さぁ、一度出ましょう」とフロイドの手を引いて部屋を出た。
バタリと閉じられた扉から、カランと何やら木の板のようなものが落ちた。
そこには綺麗な字で『Aの部屋』と書かれていたが、黒い革靴がそれをバキバキに踏み潰してしまう。
「ジェイド、なんか踏んでる」
「おや? ゴミでしょうか。気にする事はありません。さぁ、戻りましょう」
ニコニコと笑顔を張りつけながら歩くジェイドとは違い、フロイドはやはり怒りが収まらないらしい、ブツブツと何やら呟いている。
途中、同じようにAの部屋に向かう途中であろうアズールとすれ違ったが、誰も口を開くことはなかった。
ただ、視線だけで、「逃がすな」と。
「あぁ、あぁ・・・」
空っぽの部屋で、アズールは膝を落とした。
ガタガタと震える手は綺麗な銀色の髪を乱暴に掻きむしり、涙が絨毯を黒く染めていく。
「どうして、僕から離れていくんだ・・・!」
震えが止まらない。
両手で己の身体を抱きしめたが、まるで冬の海にいるかのような寒さはなくならなかった。
「どこにいるんです、A。早く帰ってきてください。でないと、僕は・・・」
噛み締めた唇から滴り落ちる血液が、絨毯の黒いシミと混ざりあっていく。
それはアズールらの心の内に渦巻くドロドロとした感情そのもので、目を逸らすのとができなかった。
「まだ、理解していないようですね。あなたが、誰のものなのか・・・」
涙は、ピタリと止まった。
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蒼空(プロフ) - あ、バレました??ww (2020年10月5日 0時) (レス) id: babd69b29c (このIDを非表示/違反報告)
ユナ(プロフ) - 蒼空さん» ありがとうござ・・・ん? あなた、もしやここに来るのは二度目ですな・・・! (2020年10月2日 21時) (レス) id: 46b7785a4c (このIDを非表示/違反報告)
ユナ(プロフ) - うるさん» 大変嬉しいお言葉ありがとうございます。最近ちょっと更新停滞気味だったのですが、お陰様で頑張れそうです。 (2020年10月2日 21時) (レス) id: 46b7785a4c (このIDを非表示/違反報告)
蒼空(プロフ) - あ…しゅきぃ…(語彙力皆無) (2020年10月2日 20時) (レス) id: babd69b29c (このIDを非表示/違反報告)
うる - この作品がすごく好きです。これからも楽しみにしています。 (2020年10月2日 8時) (レス) id: 73336d6f0f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユナ | 作成日時:2020年9月15日 18時