気付いていないのは ページ45
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自販機で飲み物を買う
茅ヶ崎くん、無事そうで良かった
「………っ」
安心した私は、また泣きそうになったなった
「……よかっ…た…っ」
我慢できなくて、思わず涙があふれる
誰もいないと思って泣いてたから
音もなく私の隣に立つ卯木先輩に少し驚いた
「茅ヶ崎、無事でよかったな」
「…卯木先輩……」
「まさか、ゲームしてるとは思わなかったが」
「そうですね…驚きました…でも、安心しました」
卯木先輩はコーヒーを買って、近くの椅子に腰を下ろす
「さっきまでどこ行ってたんですか？」
「会社に電話した、茅ヶ崎は無事だったから仕事を進めておいてってね」
「…さすがですね」
さっき買った飲み物を1口飲む
不安と焦りと階段を駆け上がったということも相まって私の体は精神的にも肉体的にも疲れていた
そんな私の体を甘いミックジュースが癒していく
「…茅ヶ崎くん、ナイランの再演、出られますかね」
「それはなんとも言えない。監督さんが判断するだろうな」
「…もし出られないってなったら…」
「…中止だな」
「…そう…ですか…」
ずっと楽しみにしていたから、ショックはすごい
でも、舞台は役者さんがいて初めて成り立つ
その役者さんが体調不良のまま舞台上に上がっていい訳がない
「…でも、今は、茅ヶ崎くんが無事でいてくれて、本当に良かったです」
「さっきからそればっかだな」
「だっ、…だって……」
卯木先輩はコーヒーを口に付けながら笑う
「…でも、どうしてそこまで心配するんだ」
「…それは決まってますよ、だって、私＿＿」
私＿＿
言葉が、上手く出てこない
友達だから…？
うん、そうだ、友達だから
…でも、なんでだろう
そう言いたいのに、言おうとすると、胸がチクッと痛む
「どうした？」
「あ、いえ、…心配するのは彼が友達だから、ですよ」
「…そうか」
でも、それ以外の理由は思いつかなくて
チクリと痛む胸はきっと気の所為だと
自分に言い聞かせながら私は友達だからと言った
それを言った時、卯木先輩の顔を見ていなかった私は
先輩が、
「＿＿＿＿ど…」
小さく、なにか呟いたことに、私は気付いていなかった
·
「どうした？」
「あ、いえ、…心配するのは彼が友達だから、ですよ」
友達…
本当はもっと
「違う理由があると思うけど…」
それに気付いていないのは、多分Aさん本人だけだね
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作者名：菜の花 | 作成日時：2020年5月22日 23時
