坂口安吾 ページ8
「今の電話相手は誰だ?」
「私の古い知り合いさ。」
「古い知り合い……。」
よく分からない土地で知り合いも一人もいないので、Aは心なしか寂しそうです。
「A君にもいるだろう?昔からの縁がある人。」
「昔からの……。」
Aの頭の中には、先生と呼ばれる人が思い浮かびました。そしてどうしようもない喪失感に襲われるのです。
乱歩はAを見つめ、心の底から可哀想だと思いました。わからないけれど、直感でそう思ったのです。
「私は、どこへ行けばいいんだろう……。」
小さく呟いたAの言葉が、重くのしかかります。友人もおらず、住んでいた場所も何処かわからないのだから、不安になるのは当然です。
「君は……、」
突然、携帯の着信音が響きます。太宰の携帯電話からです。
太宰は一瞬心底嫌そうな顔をしましたが、直ぐにいつも通りの顔に戻り、ぽちっとして電話に出ました。
「やぁ安吾。見つかったかい?」
太宰は安吾と呼ばれる人と話続けています。Aは静かに太宰の方を見ています。自分にとって、太宰のその話し相手が頼みの綱だと思ったからです。
「あぁ、わかった。この件はこっちで……。」
静かに電話が切られました。太宰は、何かを考えている様子です。
「どうだ?何かわかったか?」
「わからなかった。」
「は?」
「A君。君には戸籍がない。この意味がわかるかね?」
太宰の言葉に、Aの思考は止まり、頭が真っ白になりました。
「ど、どうして。私は石川Aだろう?そもそもどうして戸籍が……。わ、私は、誰だ……。」
混乱するAの肩を支え、太宰は話を続けました。
「A君。君のことは、武装探偵社が任せられた。君が何者かわかるまで、君は自由にはなれないだろう。だから頑張りたまえ。私たちがついている。」
太宰の言葉にAはますます混乱しています。
「写真機は……。写真機は大丈夫か?」
「大丈夫さ。すぐに直る。」
「そう、それならいいんだ。写真機があれば大丈夫。大丈夫。大丈夫だ……。」
ぶつぶつと呟き続けるAは、何だか写真機に執着しているように見えます。一部の人はそんなAの様子を、気味が悪いと思いました。
「Aは探偵社で働かせよう。寮には空室が二部屋あったでしょ。」乱歩は膨れっ面のまんまそう云いました。
「いいんですか社長……。」国木田の言葉に、福沢は「彼がそれでいいのなら。」と云い、Aを見やりました。
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えころじぃ(プロフ) - すごい好きです!更新楽しみにしてます! (2018年11月28日 21時) (レス) id: f048ef9aab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:宮沢はしじ | 作成日時:2018年8月21日 19時