目を覚ます ページ19
Aは、身体を優しく揺さぶられました。
「Aさん。起きてください。」
「賢治……。」
「国木田さんが帰ってこいって云ってます。」
「賢治……。」
「何ですか?」
「ごめんな……。」
不意に出てきた言葉でした。夢の記憶は曖昧で、何があったのか思い出せそうもありません。
「なんだか、君を、傷つけた気がする……。」
Aの言葉に宮沢はにこりと笑います。いつもの笑みです。
「帰りましょうAさん。乱歩さんも待ってますよ。」
ああ。あの後どうなったんだったか。
江戸川とは話をしたんだったか。
留置所からどうやって出たんだったか。
あの青年は何だったのだろう。
爆弾魔の事件はどうなったんだったか。
解決したんだったか。
「痛いか?」
Aは、宮沢の頬に触れながら、弱々しくたずねました。宮沢は小さく笑います。
「大丈夫です。」
探偵社につきました。ドアを開けると騒がしい光景が広がっています。
「どうかしたのか?」
「虎だよ虎。七十億の懸賞首らしい。」
「江戸川……。」
「A……。」
Aと江戸川は目が合いました。そしてお互いしばらく見つめ合っていました。目をそらすタイミングを見失ってしまったのです。
ドライアイのAは堪えられず、出てきた涙を袖口で擦りました。
「A……。」
「なんだ。」
「……。何でもない。」
江戸川はAから顔をそらしました。Aは気にする様子もなく、事務員の手伝いをしています。
ドカン。
地響きと共に、大きな音が響きました。
その瞬間、Aは自分の肩を抱き、小さく震えました。心臓がばくばくと音を出しています。
わかりません。
本当の依頼中に行われた入社試験。入社試験で、江戸川は写真機を餌にしました。そして写真機か宮沢かを選びました。
そこだけしかわかりません。
何故だか、入社試験の詳細がわからないのです。
「……。」
口を強く結び、小さく頭を抱えました。
「A、そこの資料を運んでくれ。」
「あ、あぁ。わかった。」
「頼んだぞ。」
考えても思い出せないものは思い出せませんし、記憶と云うものは不鮮明なものです。
Aは自分の頭にすがるのをやめ、頼まれた書類を持ち上げました。
バン。
突然探偵社のドアが吹き飛ばされました。
「失礼。探偵社なのに事前予約を忘れていたな。それからノックも。」
誰かに腕を引かれ、書類が床に散らばります。
「大目に見てくれ。用事はすぐ済む。」
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えころじぃ(プロフ) - すごい好きです!更新楽しみにしてます! (2018年11月28日 21時) (レス) id: f048ef9aab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:宮沢はしじ | 作成日時:2018年8月21日 19時