入社試験(五) ページ18
写真機を抱えながら、のろのろと歩きます。
ドン。
「おっと失礼。」
「……。」
あまりにのろのろと歩いていたもので、不注意で人とぶつかってしまいました。でもそんなこと気にかけられませんでした。
ショックでした。Aの頭の中は、自らを苦しめるようなことばかり思い浮かびます。
まさかここまで嫌われていただなんて。写真機はいつ直ったんだ。もう嫌だ。あいつの顔なんか。
「Aさん。」
「二度と会いたくないと云った。」
「こんばんは。」
「二度と話しかけるなと云った。」
話しかけてきたのは、今朝の青年だった。確か名をとしかずと云ったか。
としかずは、Aに抱えられてある写真機をじっと見つめました。Aはその視線に気づき、さっと写真機を隠しました。
「ひどいなぁ……。隠すことないじゃないですか。」
「あまりにもずっと見つめているものだからな。」
「盗んだりはしませんよ。」
「じゃあさっさと消えてくれ。」
「Aさん。」
この場から立ち去ろうとした時、聞き覚えのある声で呼び止められました。
「賢治……。」
「寮に戻りましょう。」
「私は……。」
「乱歩さんが帰ってきたら、話をしましょう。僕もそばにいますから。ね?」
自分はこの少年よりもうんと歳上なのに、と情けなくなってきたAは、恥ずかしさにうつむきました。
「もしかして何かあった感じですか?」
「いいえ、こちらの話です。」
「教えてくださいよ〜〜。」
「また機会があればお話ししましょうね。行きましょうAさん。Aさん?」
「君、殴れ。」
瞬間Aは、頭の中が真っ白になる感覚に襲われました。人の声や、車のクラクションの音など、全てが自分を嗤っているような気がしました。
息苦しくなり、とうとう息が出来なくなったと思った時です。
真っ白になった頭の中が綺麗に整頓されてゆきます。視界が鮮明になってゆきます。
自分の手の感覚に気づいたのは、それから何秒か経った後でした。
酷くぬめった手の指同士が、擦り合わせられました。
現実に引き戻されるには十分でした。
気づいたら手が血まみれになっていました。
手が酷く痛みます。
「賢治……?」
「Aさ……。」
自分は誰かを殴っていたようです。
人だかりが出来ていて、その人だかりの中には今朝の青年もいました。
笑っていました。
途端に意識が遠退き、目を覚ますと、自分は冷たい床に寝かされていました。
そこは留置所でした。
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えころじぃ(プロフ) - すごい好きです!更新楽しみにしてます! (2018年11月28日 21時) (レス) id: f048ef9aab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:宮沢はしじ | 作成日時:2018年8月21日 19時